リオンは真っ直ぐ家に帰った。
そして玄関を開けて最初に目に入ったのは弟の──ユウの姿だった。
「……」
大きな目を開けて、こちらをじっと見てくる。
「どうしたの? 任務は終わったよ」
するとユウは心配した声で。
「……血が、着いてるから……大丈夫?」
とユウはリオンの服に付着した血痕を指差す。
確かにリオンも汚れているとは思ったが、そこまで気にする程ではないと思っていたのだが……。
しかしユウにそう言われれば気になるもので。
それによく見ると、自分の顔にも少しだけ返り血が付いているようであった。
そこでようやく思い出す。
自分が人を殺した事を。
クライは、元イーターなのだ。
慌てて洗面所へ行き、顔を水で濡らす。
鏡を見ると、そこにはいつも通りの無表情な顔をしたリオンがいた。
任務後はいつもこうだ。
何も感じない。
いや、何も感じたくなくなる。
ただ一つ思う事は。
「(あぁ……疲れたな)」
それだけであった。

***

それから数年程経ち__
リオンは19才に。
ユウは15才になっていた。
ユウは憧れのイーターになるため、養成所に通っており、リオンの弟として──馬鹿にされていた。
『こんなのがリオンさんの弟とか……』
『恥さらしは兄の後ろに隠れとけよ』
なんて声はよく耳に入ってくる。
だからと言って、何かをする訳でもない。
リオンは、そんな扱いを受けている弟に親身になって手を尽くしてくれるから。
そんな声は気にしない。
でも、一つ変わったことがある。
リオンの任務は、もう一人で行っているらしい。カイリとは、バディを組むのを辞めたそうだ。
ユウとカイリは、リオンとの関係もあってか仲が良く、昔は良く遊びに来てくれていた。
でも、もう数年来ていない。
「…………」
ユウは何となく、寂しかった。
何日か経ったある日。
久しぶりにリオンが帰ってきた。
久しぶりの再会だが、会話はあまり弾まない。
話があるからと言われ、リビングで話すことにした。
「ごめんね、急に呼び出したりして」
「ううん、大丈夫……それより用件って?」
「うん……その事なんだけれどね……これを、ユウに渡したくて」
渡されたのは小さな紙だった。
字が書いてある。
内容は──
春鍵ユウ様 貴方はイーター採用試験を受ける権利を得ました。
試験日はこれが届いた三日後。
尚、拒否権はないものとする。
と書かれている。
これはつまり──
兄と同じ道を歩むこと──イーターになれるということだろうか。
いや、なれるチャンスを与えられたというべきか。
「……やったぁ!! ありがとう兄さん!!」
「フフフ、頑張ってね」
「うん!」
嬉しくて思わず抱きついてしまう。
でも、兄さんは何も言わずに優しく頭を撫でてくれた。
「じゃあ今日は、お祝いしないとね!! ご飯作るよ!」
「いいの? 楽しみにしてる」
そう言って二人は笑いあった。