「なあ、伊月って最近なんかあったのか?」

 担任の教師にそう声をかけられたのは、依織さんとの初デートを無事に終えた翌週のことだった。

「いえ、知らないです」

「そうか……」

 首を振って答えると、担任の教師は「なんかわかったら、教えてくれ」とだけ言って立ち去って行った。

 教師が心配するみたいに、近頃の伊月くんは様子がおかしい。

 学校だろうとところ構わずヤンキージャージを通り越して通販で買った特攻服みたいなのまで着ていたのに、近頃はみんなと同じ白シャツに黒ズボン。
 さすがに髪の色はあのままだけど、セットもされないでへにょへにょだ。

 今もぼんやり椅子に座って黒板を眺めているし、あまりにも大人しい。

 クラスのみんなも熱があるんじゃないかと騒いでいたし、依織さんも心配だねって言っていた。

「伊月くん、最近元気ないけどなんかあったの?」

 伊月くんの席に近づいて声をかけてみても、「別にー」とやる気のない言葉が返ってくるだけだった。

 なんとなく、これが原因かな~っていう理由の見当はついていたけど、伊月くんがこの調子だから確信はない。

 前だったら、伊月くんは僕になんでも話してくれた。
 父さんと母さんが喧嘩してたとか、昨日金縛りにあっちゃったとか、素足でゴキブリを踏んづけたとか。
 もっと大きな秘密だって、僕にだけ教えてくれていた。
 でも、今回は何も話してくれない。

 ぽっかりと、胸に穴が空いた気分だった。

「伊月くん。今度の日曜日、予定空いてる?」

「空いてるけど……なんだよ」

 ため息混じりに返されて、気怠げで覇気がない。

「買い物に行こう」

 僕は伊月くんのアンニュイの心当たりを口にする。


「楓さんの、結婚祝いを買いに」