伊月くんが教室に戻ってくることがないまま、午前中の授業は終わってしまった。

 僕にカバンを預けたってことは帰ってないと思うんだけど……って考えていたら、給食の時間になって伊月くんは戻ってきた。

「伊月! どこ行ってたんだよ」

 ちゃっかりトレーを持って配膳の列に並ぶ伊月くんに、クラスのみんなが次々声をかける。

「思い切った頭にしたね」

「前と後ろで色がちげえ、オセロみてえ!」

 みんなワイワイ伊月くんを取り囲んでいる。

 普通の公立中学だけど、うちは割と真面目な校風だった。
 制服はないのにみんな白いシャツと紺や黒みたいな濃い色のボトムス履いて、ちょっとした制服っぽくしている。
 そんな中で、ド派手な伊月くんは異彩も異彩なのに、なぜか皆に恐れられることも嫌われることもなく愛され慕われている。

 伊月くんを叱る教師陣だって、愛情あふれる感じだ。

 最前列に割り込んだ伊月くんを誰も咎めもせず、給食係はちょっと多めにサービスしていた。

 僕が同じことをやったら、奇異な目で見られること請け合いだ。

 伊月くんの人徳。

 僕はそれを、最後尾から眺めているだけだった。