なんとか伊月くんをお風呂場に放り込むことに成功したけど、セットに入ってたトリートメントは「そんな女々しいもんいらねえ!」という謎理論が展開されて突き返された。
 捨てるのももったいないから、もらって帰ろう。
 サラサラヘアーになるかな。

「伊月くん、どう?」

 お風呂場の戸が開いて、伊月くんが顔を出す。
 服を濡らさずに頭だけ洗うのは難易度が高いだろうってことでパンイチになってる。

 ボクサーパンツ一枚の伊月くんは、なんていうか薄い。
 筋肉ってどこだろうって感じだ。

 女の子だったら羨ましい体型なんだろうけど、伊月くん憧れのマッチョには程遠い。

 せめてもの憧れに近づくためのブリーチ。
 シャンプーして露わになった伊月くんの髪は……

「ムラだらけ!」

 でも、伊月くんは笑顔だった。

「やっぱムズいな! 次は金貯めて染めに行く」

 伊月くんはニコニコしているけど、その頭は結構な惨劇だった。

 ムラがあるどころじゃない。
 生え際は明るい金髪なのにえり足はほとんど色が抜けてなくて、前から見ると金髪、後ろから見ると黒髪といった有様。
 きれいに色が抜けてるように見えてる部分も髪をかき上げると中が黒いし、金髪というかオレンジっぽくなってるところも多くて、やっちまった感。

 なのに、ドライヤーを取り出して鼻歌まじりで乾かしている。

「ピリピリしてたのは大丈夫?」

「おう、洗ったら治った!」

 皮膚が赤くなったり変になったところもないみたいだし、僕としてはそれでOKだ。

「でも、コレはコレでアリだな。オンリーワンにしてナンバーワンのヘアカラー。これぞ、男の中の男!」

 失敗だって楽しんでしまう。

 僕は伊月くんのこういうところが大好きだから、守りたいなんて思わない。

 差し伸べた手を振り払って、駆け出すのような伊月くんを見ていたい。