伊月くんと僕は幼なじみ。
産院で母親同士が意気投合して、僕の年齢はそのまま伊月くんとの幼なじみ歴になってる。
保育園も一緒。
校区も同じ地域だったから中学までずっと一緒。
高校はどうなるかわからないけど、たぶん成績も同じぐらいだから同じ高校になる可能性は十分ある。
どういう計らいか、クラスまでずっと一緒だったから、伊月くんのいない人生なんて正直考えられない。
これって変かな?
でも、僕らも成長して中学生になって、思春期らしく色恋沙汰にも興味が出てきて、つまりは僕らの関係に変化も起きる。
「伊月くん、僕……彼女が出来たんだ」
中学に入ってヤンキーファッションに目覚めた伊月くんは、今までで一番驚いた顔をしていた。
黒髪をツンツンヘアーにセットして、ド派手なジャージにドラッグストアの袋を手から下げて、道端で立ち止まる伊月くんを道行く人たちが不思議そうに振り返る。
「おまっ、マ……!?」
おまえマジかと言いたいんだろうけど、言葉になってない。
でも、長い付き合いだから伊月くんの言いたいことは手に取るようにわかる。
「マジだよ。同じクラスの依織さん。ほら、文芸部で文化委員の」
「あのメガネか!」
「そう、あのメガネの可愛い子」
うっかり惚気てしまった。
長い黒髪が綺麗な依織さん。
いかにも文学少女って感じで前から気になっていた。
そんな彼女に告白されて、断る理由なんてない。
「だから、来週からはあんまり遊べなくなる」
今までは伊月くんと遊ぶことが多かった。
多かったっていうか、必ず伊月くんっていうレベルだった。
伊月くんと二人っきりのときもあれば、大勢のなかに伊月くんと僕もいたり、母親同士の遊びに僕らも連行されたり、泊まりに来たり行ったりもある。
学校でもよく一緒につるんでるし、休みの日も一緒。
でも、これからは彼女とデートに行ったりするし、さすがにデートは伊月くんを連れて行けない。
「そ、そうか。女が出来たんならな、大切にしてやんねぇとな。男として!」
ちょっとフリーズしていたけど、伊月くんはうんうんと頷いて納得してくれたみたいだ。
伊月くんが男としてとか、やたら男を強調するようになったのは中学に入ったぐらいからだった。
男らしさへの憧れが強いみたいで、マッチョの生き血を飲んだら俺もムキムキになれるかなって前にぼやいてた。
正直、伊月くんは男らしくない。
小学校六年の夏で身長は止まってしまったし、丸顔で黒目がちで女の子に間違われることも多い。
運動神経はいいけど、筋肉質とはほど遠い。
たぶん、ヤンキーファッションにはまったのも舐められないようにって気持ちが強いんだと思う。
伊月くんはそんなことしなくたって、十分かっこいいのに。
男男と連呼するのも、クラスの女の子たちに身長を抜かれ始めたからだと僕は思ってる。
「今日はちゃんと、一日付き合うから」
学校休みの日曜日。
いつも通り僕はこうして伊月くんと過ごしてる。
ドラッグストアで買った中身を指さしながら言うと、伊月くんはニカッと笑った。
「男と男の約束だもんな! 来週はちゃんと彼女とデートしてやれよ」
こぶしで僕の肩を叩いて、伊月くんは再び歩き始めた。
「うん、もちろん」
少し遅れて、僕はそれを追いかける。
物心ついた時からずっと、僕と伊月くんはこういう関係だった。
先を行く伊月くん、後を追う僕。
僕のほうが先に彼女が出来たって、それは変わらない。
「もうどこ行くか決めたのか?」
「ううん、まだ」
告白をオーケーしたときに、来週の日曜日に一緒に出掛けようって予定だけは押さえた。
けど、それ以外の予定はまだ未定。
いろいろと定番のデートスポットを検索したりしてみているけど、中学生の予算じゃあんまり遠出は出来ないし、悩んでる。
「男なら男らしく、ちゃんとリードしろよ! 一緒にプラン考えてやろうか!?」
「それはいい」
「なんでだよ!」
伊月くんを頼ったら、プロレスとか行くことになりそうだから――とは言わないで、不服そうな伊月くんには別の言葉を言う。
「ちゃんと自分で考えないと、男らしくないじゃん」
「それもそうだな!」
一瞬で納得してくれた。
僕にも男らしくしろだのなよなよすんなとか、口うるさくなってきたのはちょっと嫌だったけど、話が簡単になったのは助かる。
昔はへそを曲げるとなかなか機嫌が直らなくて大変だった。
「早く行こう」
しゃべりながら歩いていたら、遅くなってしまう。
伊月くんのお母さんが帰ってくるまでに、コトを済ませなければならない。
僕は伊月くんの肩を叩いて、伊月くんを追い越す。
追い越されてムキになった伊月くんは、黙って僕を追い越してそのまま走って行ってしまった。
置いて行かれたわけだけど、別に僕は追いかけたりしない。
のんびり行こう。
行先はどうせ伊月くんの家だ。
産院で母親同士が意気投合して、僕の年齢はそのまま伊月くんとの幼なじみ歴になってる。
保育園も一緒。
校区も同じ地域だったから中学までずっと一緒。
高校はどうなるかわからないけど、たぶん成績も同じぐらいだから同じ高校になる可能性は十分ある。
どういう計らいか、クラスまでずっと一緒だったから、伊月くんのいない人生なんて正直考えられない。
これって変かな?
でも、僕らも成長して中学生になって、思春期らしく色恋沙汰にも興味が出てきて、つまりは僕らの関係に変化も起きる。
「伊月くん、僕……彼女が出来たんだ」
中学に入ってヤンキーファッションに目覚めた伊月くんは、今までで一番驚いた顔をしていた。
黒髪をツンツンヘアーにセットして、ド派手なジャージにドラッグストアの袋を手から下げて、道端で立ち止まる伊月くんを道行く人たちが不思議そうに振り返る。
「おまっ、マ……!?」
おまえマジかと言いたいんだろうけど、言葉になってない。
でも、長い付き合いだから伊月くんの言いたいことは手に取るようにわかる。
「マジだよ。同じクラスの依織さん。ほら、文芸部で文化委員の」
「あのメガネか!」
「そう、あのメガネの可愛い子」
うっかり惚気てしまった。
長い黒髪が綺麗な依織さん。
いかにも文学少女って感じで前から気になっていた。
そんな彼女に告白されて、断る理由なんてない。
「だから、来週からはあんまり遊べなくなる」
今までは伊月くんと遊ぶことが多かった。
多かったっていうか、必ず伊月くんっていうレベルだった。
伊月くんと二人っきりのときもあれば、大勢のなかに伊月くんと僕もいたり、母親同士の遊びに僕らも連行されたり、泊まりに来たり行ったりもある。
学校でもよく一緒につるんでるし、休みの日も一緒。
でも、これからは彼女とデートに行ったりするし、さすがにデートは伊月くんを連れて行けない。
「そ、そうか。女が出来たんならな、大切にしてやんねぇとな。男として!」
ちょっとフリーズしていたけど、伊月くんはうんうんと頷いて納得してくれたみたいだ。
伊月くんが男としてとか、やたら男を強調するようになったのは中学に入ったぐらいからだった。
男らしさへの憧れが強いみたいで、マッチョの生き血を飲んだら俺もムキムキになれるかなって前にぼやいてた。
正直、伊月くんは男らしくない。
小学校六年の夏で身長は止まってしまったし、丸顔で黒目がちで女の子に間違われることも多い。
運動神経はいいけど、筋肉質とはほど遠い。
たぶん、ヤンキーファッションにはまったのも舐められないようにって気持ちが強いんだと思う。
伊月くんはそんなことしなくたって、十分かっこいいのに。
男男と連呼するのも、クラスの女の子たちに身長を抜かれ始めたからだと僕は思ってる。
「今日はちゃんと、一日付き合うから」
学校休みの日曜日。
いつも通り僕はこうして伊月くんと過ごしてる。
ドラッグストアで買った中身を指さしながら言うと、伊月くんはニカッと笑った。
「男と男の約束だもんな! 来週はちゃんと彼女とデートしてやれよ」
こぶしで僕の肩を叩いて、伊月くんは再び歩き始めた。
「うん、もちろん」
少し遅れて、僕はそれを追いかける。
物心ついた時からずっと、僕と伊月くんはこういう関係だった。
先を行く伊月くん、後を追う僕。
僕のほうが先に彼女が出来たって、それは変わらない。
「もうどこ行くか決めたのか?」
「ううん、まだ」
告白をオーケーしたときに、来週の日曜日に一緒に出掛けようって予定だけは押さえた。
けど、それ以外の予定はまだ未定。
いろいろと定番のデートスポットを検索したりしてみているけど、中学生の予算じゃあんまり遠出は出来ないし、悩んでる。
「男なら男らしく、ちゃんとリードしろよ! 一緒にプラン考えてやろうか!?」
「それはいい」
「なんでだよ!」
伊月くんを頼ったら、プロレスとか行くことになりそうだから――とは言わないで、不服そうな伊月くんには別の言葉を言う。
「ちゃんと自分で考えないと、男らしくないじゃん」
「それもそうだな!」
一瞬で納得してくれた。
僕にも男らしくしろだのなよなよすんなとか、口うるさくなってきたのはちょっと嫌だったけど、話が簡単になったのは助かる。
昔はへそを曲げるとなかなか機嫌が直らなくて大変だった。
「早く行こう」
しゃべりながら歩いていたら、遅くなってしまう。
伊月くんのお母さんが帰ってくるまでに、コトを済ませなければならない。
僕は伊月くんの肩を叩いて、伊月くんを追い越す。
追い越されてムキになった伊月くんは、黙って僕を追い越してそのまま走って行ってしまった。
置いて行かれたわけだけど、別に僕は追いかけたりしない。
のんびり行こう。
行先はどうせ伊月くんの家だ。