真っ白な世界で、僕は一人立っていた。きっと、これから僕は元の世界に戻るのだろう。月野がヴァイキングに潰された、あの忌々しい世界に。

 これからその世界で、僕は生きていくんだ。一人で、何の希望も見いだせないまま、残りの寿命を悪戯に減らしていく。

 そんな人生に、意味なんてない。だから、残りの命の使い方は決めていた。

「やあ、また会ったね」

 突然の声。声の方に振り向くと、そこには星の骸がいた。

「来ると思ってたよ」

「君もそろそろ学習してきたみたいだね」

「なあ、僕の願いを叶えてくれないか」

 星の骸は、願いを叶える際に五十年の寿命を奪う。しかし、五十年分の寿命がない者からは、最後の一日を除いて、全ての寿命を支払うことで願いを叶えてくれる。

 つまり、僕にはもう一度だけ、願いを叶える権利がある。

「今がその時ってやつなんだろ?」

 僕がそう言うと、彼は笑いながら拍手をした。

「分かってるじゃないか。その通りだよ」

 僕が初めてユートピア・ワンダーワールドで星の骸と会った時のことだ。理想の人に会わせろと願った僕に対して、星の骸は『今はその時じゃない』と言った。確かに、願うべきタイミングは今だった。今以外に、あり得なかった。

「ヴァイキングが落下した事故を、無かったことにしてくれ」

 僕は彼に、そう願った。

 そうすれば、月野は後一年生きられる。辛い闘病生活が待っているだろうけど、ヴァイキングに潰される結末よりはマシだろうと思えた。

 それに、後一日だけ、僕は月野と一緒にいられる。彼女と少しでも長くいられるなら、こんな命、いくらでも投げ捨ててやる。

「分かったよ。それが、君の願いなんだね」

「ああ、そうだ」

 星の骸は「うんうん」と頷いてから、僕の頭上に手をかざした。

「ありがとな」

 僕がそう言うと、星の骸は照れたように笑った。

「似合わないよ、そういうの。じゃあ、行ってらっしゃい。さようなら」

「ああ。さようなら」

 今度は僕が星の骸に手を振る番だった。彼は黙って僕を見送り、そして、元の世界に戻った。