これはいつの出来事だろうか。数ヶ月前くらいだったような気もするし、もっと前だったような気もする。とにかく、僕は星の骸という人物についての噂話を聞いたことがある。どうやらこの世界を作り上げた張本人らしく、彼――もしくは彼女――には人の願いを叶える力があるという。

 但し、その願いを叶えるには条件がある。その条件というのが、彼に寿命を捧げることだと言われている。つまり彼は、命と引き換えに人々の願いを叶えているのだ。更に言えば、願いには一つ例外がある。寿命を奪うという特性ゆえだろう。元々持っている寿命を増やすという願いだけは、どうしても叶えられないらしい。

 それはいかにも、このユートピア・ワンダーワールドを作った人物の考えそうなことだった。

「それで俺は思ったわけだよ」

 僕にこの噂を教えた人物は言った。彼の顔はもう覚えてすらいない。

「このユートピア・ワンダーワールドに暮らしている限り、大抵の願いは叶う。なら、今更寿命を払う馬鹿な奴なんているわけないだろ」

 確かに、彼の言っていることには一理あった。

「星の骸なんかに寿命を払わなくたって、理想は叶っちまうんだからな」

「じゃあなんで、星の骸にはそんな噂があるんだろうな」

 彼はその質問を求めているような気がした。それに対する明確な答えを語りたがっているように見えたからだ。だから、聞いてあげた。

「そこで俺は考えたわけだ。俺達は既に、気が付いていない内に既に、彼に願っちまってんじゃないかって。そんな風に思うわけだ」

「なるほどね」

 もしそうだったとしたら、僕は柄にもなく飛び跳ねて喜んでしまうだろう。揃いも揃ってみんな寿命がないというのは、幸せな奴らを妬んでいた僕にとって朗報でしかないからだ。