結果から言えば、月野は生きていた。たまたま、本当に偶然、そのとき彼女は別の場所にいたのだという。しかしそれは、新たな地獄の始まりに過ぎなかった。
あの後、僕は警察に無理やり連れ戻され、物凄い剣幕で叱られていた。その頃にはもう、辺りはすっかり暗くなっていて、燃え盛る炎の光が、より一層激しいものに見えた。
その時、スマホに連絡が入ったのだ。
「ごめんなさい。沢山連絡くれてたんですよね。ちょっと、その……倒れちゃって」
電話の相手は月野だった。彼女の声は小さくて、何かに怯えていた。星の骸の言っていた通り、彼女は無事だった。そのことが嬉しい。でも――――
「倒れた? 倒れたってなんだよ」
聞き返さずにはいられない。
「今日の昼前くらいですかね。受験勉強に根を詰めすぎたみたいなんです……それで、図書館で意識を失っちゃったみたいで」
どうやら彼女は勉強中に気を失って救急車で病院に搬送されたらしかった。今は病院から電話をかけているという。不幸中の幸いと言えばいいのか、月野は倒れたおかげで、命を失わずに済んだのだ。
「意識を失ったって、体調は大丈夫なのかよ」
その質問に、月野は黙った。それは数秒間の沈黙だったはずだ。だけど、僕には数時間のようにも、数万時間のようにも感じられた。
「……分かないんです。その……検査入院しないといけないみたいで……だから、これから分かるのかな。多分、大丈夫だと思いますよ」
彼女は「あははっ」と笑った。無理に明るくしているのが、電話越しでも分かる。月野の隣にいられないのが、酷く情けなかった。彼女が倒れるまで追い込まれているのに気付けない自分が、馬鹿に思えた。
「今すぐ行くから、待っててくれ」
「サンタさんの家からじゃ絶対に間に合いませんよ。面会時間、夜の八時までですから」
スマホで時計を確認すると、七時を回ったところだった。月野が搬送された病院は月野の家の隣町にある大学病院で、月野の家からも遠いし、僕の家からだともっと遠い。まず間違いなく、八時には間に合わないだろう。
「いや、それでも行くよ」
それから僕は、一方的に電話を切った。
一瞬でもいいから、月野の顔が見たかった。
病院に着く頃には、八時半を過ぎていた。離れていたおかげなのか、病院付近に隕石の被害は見られなかった。
だからだろう、月野は隕石の被害に気づいていなかったのかもしれない。彼女は気を失っていただろうし、外のことに気を配っている余裕などなかった。やっと落ち着いてスマホを開いたところ、僕から大量の連絡が入っていたのに気が付いた。それですぐに連絡してくれたのだろう。
隕石による被害者が大量に搬送されてきたのか、病院は忙しそうだった。それでも、僕は面会をするために受付に向かった。だが、やはり断られてしまう。少しだけ粘ったが、これ以上は本気で迷惑になると思い病院から出た。
それでも、僕は諦められなかった。月野の顔を、どうしても見たかった。僕は彼女に「外から何が見える?」とメッセージを送った。すぐに「遠くにスカイツリーがチラッと見えますね。後はたこ焼き屋さんとかスーパーばっかりです」と返信が返ってきた。
僕は病院の周りをぐるっと周り、スカイツリーを探した。それからたこ焼き屋を見つけて、そこに立った。僕は月野に「スカイツリー見えるんだ。写真送ってよ」と送信する。
少しして、三階の病室の窓が開かれた。あれがきっと、月野の病室だ。
僕はスマホのライトを付けて大きく手を振った。
視界の端でライトの明かりを捉えたのだろうか、月野はこちらに視線を落とした。
とにかく、月野が生きていて良かった。
月野も僕に見えやすいようにスマホのライトを付けて手を振ってくれている。
言葉はなくても時間を共にできることが嬉しかった。
あの後、僕は警察に無理やり連れ戻され、物凄い剣幕で叱られていた。その頃にはもう、辺りはすっかり暗くなっていて、燃え盛る炎の光が、より一層激しいものに見えた。
その時、スマホに連絡が入ったのだ。
「ごめんなさい。沢山連絡くれてたんですよね。ちょっと、その……倒れちゃって」
電話の相手は月野だった。彼女の声は小さくて、何かに怯えていた。星の骸の言っていた通り、彼女は無事だった。そのことが嬉しい。でも――――
「倒れた? 倒れたってなんだよ」
聞き返さずにはいられない。
「今日の昼前くらいですかね。受験勉強に根を詰めすぎたみたいなんです……それで、図書館で意識を失っちゃったみたいで」
どうやら彼女は勉強中に気を失って救急車で病院に搬送されたらしかった。今は病院から電話をかけているという。不幸中の幸いと言えばいいのか、月野は倒れたおかげで、命を失わずに済んだのだ。
「意識を失ったって、体調は大丈夫なのかよ」
その質問に、月野は黙った。それは数秒間の沈黙だったはずだ。だけど、僕には数時間のようにも、数万時間のようにも感じられた。
「……分かないんです。その……検査入院しないといけないみたいで……だから、これから分かるのかな。多分、大丈夫だと思いますよ」
彼女は「あははっ」と笑った。無理に明るくしているのが、電話越しでも分かる。月野の隣にいられないのが、酷く情けなかった。彼女が倒れるまで追い込まれているのに気付けない自分が、馬鹿に思えた。
「今すぐ行くから、待っててくれ」
「サンタさんの家からじゃ絶対に間に合いませんよ。面会時間、夜の八時までですから」
スマホで時計を確認すると、七時を回ったところだった。月野が搬送された病院は月野の家の隣町にある大学病院で、月野の家からも遠いし、僕の家からだともっと遠い。まず間違いなく、八時には間に合わないだろう。
「いや、それでも行くよ」
それから僕は、一方的に電話を切った。
一瞬でもいいから、月野の顔が見たかった。
病院に着く頃には、八時半を過ぎていた。離れていたおかげなのか、病院付近に隕石の被害は見られなかった。
だからだろう、月野は隕石の被害に気づいていなかったのかもしれない。彼女は気を失っていただろうし、外のことに気を配っている余裕などなかった。やっと落ち着いてスマホを開いたところ、僕から大量の連絡が入っていたのに気が付いた。それですぐに連絡してくれたのだろう。
隕石による被害者が大量に搬送されてきたのか、病院は忙しそうだった。それでも、僕は面会をするために受付に向かった。だが、やはり断られてしまう。少しだけ粘ったが、これ以上は本気で迷惑になると思い病院から出た。
それでも、僕は諦められなかった。月野の顔を、どうしても見たかった。僕は彼女に「外から何が見える?」とメッセージを送った。すぐに「遠くにスカイツリーがチラッと見えますね。後はたこ焼き屋さんとかスーパーばっかりです」と返信が返ってきた。
僕は病院の周りをぐるっと周り、スカイツリーを探した。それからたこ焼き屋を見つけて、そこに立った。僕は月野に「スカイツリー見えるんだ。写真送ってよ」と送信する。
少しして、三階の病室の窓が開かれた。あれがきっと、月野の病室だ。
僕はスマホのライトを付けて大きく手を振った。
視界の端でライトの明かりを捉えたのだろうか、月野はこちらに視線を落とした。
とにかく、月野が生きていて良かった。
月野も僕に見えやすいようにスマホのライトを付けて手を振ってくれている。
言葉はなくても時間を共にできることが嬉しかった。