「ねえ、サンタくんはどんなところに住んでたの?」
ソファに座って興味もクソもないバラエティ番組を垂れ流していた時だ。
隣に座っていた黄瀬が聞いてきた。
「アパートに一人暮らしだったよ。僕の部屋にも、黄瀬の部屋みたいに君の物が置いてあった」
僕がそう言うと、黄瀬はもじもじしながら、呟いた。
「行ってもいい?」
断る理由もない。
「まあ、別にいいよ」
「やったー! じゃあ、夜ご飯はサンタくんの家で食べようか」
それから、僕達は身支度を整えた。時刻は既に夜の七時を過ぎた頃だ。季節が変わって、冬日になっている。僕は黄瀬からコートを借りて、外に出る。彼女のコートは少し、キツかった。
空はもう既に暗い。この世界で陽が昇ることは、もうない。後たったの五時間で、この世界は終わる。月野の命も、それで終わる。
そう思うと生きている心地がしなかった。今頃月野はどうしているのだろう。憧れの彼と一緒に最後の時間を過ごしているのだろうか。幸せな時間を過ごしてくれてればいいなと無責任に思った。
「着いたよ」
黄瀬を玄関に入れて、電気を付けた。
「おぉー。ここがサンタくんの家か」
彼女は楽しそうに辺りを見回している。
「リビングはこっち」
廊下を進んでいって、扉を開けた。その時、視界の隅に紙切れがあるのが見えた。それはテーブルに置かれていて、どうやらノートかメモ帳の切れ端のようだった。こんなところに紙切れを置いた覚えはない。なんだろうと思い、それを手に取った。
それを見て、僕は自分の馬鹿さ加減に気が付いた。
そこには、こう書かれている。
『サンタさん。今までありがとうございました。直接言うのが恥ずかしいので、ここに書き残しておきます。遊園地から帰った後、私はテキトーな理由をつけて少し遅く部屋に入りますから、その間に読んでください。
単刀直入に言います。
私も、貴方のことが大好きです。
誰よりも何よりも、サンタさんのことが好きです。理想の人よりも、大好きなんです。貴方が、私には必要なんです。
サンタさんと過ごした時間が、私を満たしてくれました。
最後の瞬間を一緒に過ごしたいと言ってくれて、嬉しかった。だからどうか、この世界が終わった後も幸せでいてください。理想の方と楽しい時間を過ごしてください。その隙間に、ちょっとだけでもいいから私を思い出してくれたら、嬉しいです。
月野ユキより』
僕は本物の、馬鹿だった。僕よりも救いようのない馬鹿は、探したって見つかるわけがない。
ぽたぽたとこぼれ落ちた涙が、手紙の上に落ちる。
勝手に月野の幸せを想像して、それを彼女に押し付けてしまった。
「あ……サンタくん」
部屋に入ってきた黄瀬が、僕を見ている。
「ごめん」
言ってから、僕は無理やり笑ってみせた。
「なに泣いちゃってんだろうね」
目尻をぬぐってから、もう一度笑う。自分の顔は見れないのに、ぎこちない笑みなんだろうなと分かってしまう。
黄瀬は「はあ」とため息をついてから「しょうがないなあ」と呟いた。
「行っていいよ。サンタくん」
彼女は僕の心でも読んでいるみたいだった。
「私さ、実は見ちゃったんだよ。遊園地で、サンタくんが女の子と歩いてるのをさ」
彼女は目を細めて薄く微笑んでいる。その姿は女神のように美しかった。
「流石にさ、分かっちゃうよ。あんな風に、ずーっと死にそうな顔されてちゃね」
だから、行っていいよ。と、彼女は続けた。
「その人のところに、行きたいんでしょ? それこそ、泣きたいくらい」
彼女は僕の元まで歩いてきて、僕の背中を押した。
「ほら、行きなよ。あの子が待ってるよ」
僕は何も言い返せない。
「行けって。早く行けよ」
少し震えた声で、黄瀬が更に強く僕の背中を押した。
「ありがとう。黄瀬」
彼女はペシリと僕を叩く。
「うん。行ってらっしゃい」
その言葉を背に、僕は走り出した。
背後から「素晴らしい」と、誰かの声が聞こえた気がした。
ソファに座って興味もクソもないバラエティ番組を垂れ流していた時だ。
隣に座っていた黄瀬が聞いてきた。
「アパートに一人暮らしだったよ。僕の部屋にも、黄瀬の部屋みたいに君の物が置いてあった」
僕がそう言うと、黄瀬はもじもじしながら、呟いた。
「行ってもいい?」
断る理由もない。
「まあ、別にいいよ」
「やったー! じゃあ、夜ご飯はサンタくんの家で食べようか」
それから、僕達は身支度を整えた。時刻は既に夜の七時を過ぎた頃だ。季節が変わって、冬日になっている。僕は黄瀬からコートを借りて、外に出る。彼女のコートは少し、キツかった。
空はもう既に暗い。この世界で陽が昇ることは、もうない。後たったの五時間で、この世界は終わる。月野の命も、それで終わる。
そう思うと生きている心地がしなかった。今頃月野はどうしているのだろう。憧れの彼と一緒に最後の時間を過ごしているのだろうか。幸せな時間を過ごしてくれてればいいなと無責任に思った。
「着いたよ」
黄瀬を玄関に入れて、電気を付けた。
「おぉー。ここがサンタくんの家か」
彼女は楽しそうに辺りを見回している。
「リビングはこっち」
廊下を進んでいって、扉を開けた。その時、視界の隅に紙切れがあるのが見えた。それはテーブルに置かれていて、どうやらノートかメモ帳の切れ端のようだった。こんなところに紙切れを置いた覚えはない。なんだろうと思い、それを手に取った。
それを見て、僕は自分の馬鹿さ加減に気が付いた。
そこには、こう書かれている。
『サンタさん。今までありがとうございました。直接言うのが恥ずかしいので、ここに書き残しておきます。遊園地から帰った後、私はテキトーな理由をつけて少し遅く部屋に入りますから、その間に読んでください。
単刀直入に言います。
私も、貴方のことが大好きです。
誰よりも何よりも、サンタさんのことが好きです。理想の人よりも、大好きなんです。貴方が、私には必要なんです。
サンタさんと過ごした時間が、私を満たしてくれました。
最後の瞬間を一緒に過ごしたいと言ってくれて、嬉しかった。だからどうか、この世界が終わった後も幸せでいてください。理想の方と楽しい時間を過ごしてください。その隙間に、ちょっとだけでもいいから私を思い出してくれたら、嬉しいです。
月野ユキより』
僕は本物の、馬鹿だった。僕よりも救いようのない馬鹿は、探したって見つかるわけがない。
ぽたぽたとこぼれ落ちた涙が、手紙の上に落ちる。
勝手に月野の幸せを想像して、それを彼女に押し付けてしまった。
「あ……サンタくん」
部屋に入ってきた黄瀬が、僕を見ている。
「ごめん」
言ってから、僕は無理やり笑ってみせた。
「なに泣いちゃってんだろうね」
目尻をぬぐってから、もう一度笑う。自分の顔は見れないのに、ぎこちない笑みなんだろうなと分かってしまう。
黄瀬は「はあ」とため息をついてから「しょうがないなあ」と呟いた。
「行っていいよ。サンタくん」
彼女は僕の心でも読んでいるみたいだった。
「私さ、実は見ちゃったんだよ。遊園地で、サンタくんが女の子と歩いてるのをさ」
彼女は目を細めて薄く微笑んでいる。その姿は女神のように美しかった。
「流石にさ、分かっちゃうよ。あんな風に、ずーっと死にそうな顔されてちゃね」
だから、行っていいよ。と、彼女は続けた。
「その人のところに、行きたいんでしょ? それこそ、泣きたいくらい」
彼女は僕の元まで歩いてきて、僕の背中を押した。
「ほら、行きなよ。あの子が待ってるよ」
僕は何も言い返せない。
「行けって。早く行けよ」
少し震えた声で、黄瀬が更に強く僕の背中を押した。
「ありがとう。黄瀬」
彼女はペシリと僕を叩く。
「うん。行ってらっしゃい」
その言葉を背に、僕は走り出した。
背後から「素晴らしい」と、誰かの声が聞こえた気がした。