彼女の一日は腹部への鈍い痛みから始まる。
朝、布団で眠っていると体重を乗せた父親の蹴りを食らう。それは月野が起き上がるまで永続的に続くもので、彼女が布団から立ち上がらない限り何発もの蹴りを受けることになる。
胃の奥から抗い難いものが迫り上がってきて、三日に一度は吐いた。吐いた日には、その場で衣服を脱がされて、それで掃除させられる。
腹部を押さえてゲホゲホと蹲っている間にも蹴りは続くため、どんなに痛くて気持ち悪くともすぐに立ち上がらなければならない。
よろよろと立ち上がると「ようやく起きたか」と父は楽しそうに笑った。
何が楽しいのかさっぱり分からない。禿げ上がった頭に、油の浮かんだ顔、でっぷりと太った体型、性格も見た目も最悪な、クソみたいな親父だ。
そのまま父は月野の髪を引っ張ってリビングへと連れて行く。
「今日のお前の朝食を取ってきてやったぞ。自分で調理して食え」
どん、と勢いよく背中を押され、月野は愕然とした。今日もこれを食べなければいけないのか。
彼女の視線の先、テーブルの上には解体用ナイフが突き刺さった猫の死骸が転がっていた。
「ほら、早く準備しろよ」
もう一度強く背中を押され、月野は恐る恐る解体用ナイフを死骸から引き抜いた。悪臭と刃物を握るという恐怖から、彼女の足はガタガタと震えていた。
そんな月野の様子を、父は気色悪い笑みを浮かべながらカメラで撮影していた。
こういうものを好むマニアがいるんだと父は言っていた。
誰もが幸せなんて、信じられなかった。
ここで刃物が怖いと調理を拒否したら、生で無理やり口の中に突っ込まれることは過去の経験から分かっている。
そんな風にして彼女は猫の死体を解体し、肉を焼いて食べた。吐きたい気持ちを懸命に堪え、猫を口に運んでいく。
後は父の機嫌さえ悪くなければ父からの暴力を受けることはない。ただ、一度でも機嫌を損ねたり逆らったりすると二時間は殴られ続ける。酷い日には煙草を押し当てられ、刃物で斬り込みを入れられた。
彼女は日々そんな恐怖に耐え続けながら、父親と過ごしていた。
夜になると、今度は妹が頭の悪そうな男を家に連れ込む。恐らくは妹の彼氏なのだろうが、彼は無駄に図体がデカく家の中を我が物顔で歩いている。
妹は月野が家にいると、思い出したように彼女のことを部屋に呼び出す。
彼らは彼女の義眼を興味深そうに見て、ケラケラと笑っている。彼らは夕食時に月野に首輪をかけて、両手をガムテープで塞いだ。
月野の首輪はテーブルに繋がれており、その可動域には限界がある。
「ほら、食えよ」
その可動域ギリギリのところに、妹は月野の食事を置いた。それは猫缶の中身だった。それを拒否すれば一日中首輪を付けられたまま解放されないのは分かり切っているので、やるしかない。
月野は首輪のままうさぎ飛びで皿の元まで向かい、犬食いで猫缶を食べた。
「あははっ。いい眺めだなあ」
手を叩いて妹の彼氏が嬉しそうに笑っている。彼らにとって、人を虐げるのが幸せなことなんだろう。
「私の毎日は、こんな風に繰り返されています」
月野は目を細めて笑っていた。それは全てを諦めたような表情に見えた。
「そんなの、あんまりだろ」
虐待に怯え、彼女は満足に自分の家に帰れない。月野は身も心も徹底的に痛めつけられていた。最低最悪の環境で、彼女はずっと孤独と戦っていたのだ。
朝、布団で眠っていると体重を乗せた父親の蹴りを食らう。それは月野が起き上がるまで永続的に続くもので、彼女が布団から立ち上がらない限り何発もの蹴りを受けることになる。
胃の奥から抗い難いものが迫り上がってきて、三日に一度は吐いた。吐いた日には、その場で衣服を脱がされて、それで掃除させられる。
腹部を押さえてゲホゲホと蹲っている間にも蹴りは続くため、どんなに痛くて気持ち悪くともすぐに立ち上がらなければならない。
よろよろと立ち上がると「ようやく起きたか」と父は楽しそうに笑った。
何が楽しいのかさっぱり分からない。禿げ上がった頭に、油の浮かんだ顔、でっぷりと太った体型、性格も見た目も最悪な、クソみたいな親父だ。
そのまま父は月野の髪を引っ張ってリビングへと連れて行く。
「今日のお前の朝食を取ってきてやったぞ。自分で調理して食え」
どん、と勢いよく背中を押され、月野は愕然とした。今日もこれを食べなければいけないのか。
彼女の視線の先、テーブルの上には解体用ナイフが突き刺さった猫の死骸が転がっていた。
「ほら、早く準備しろよ」
もう一度強く背中を押され、月野は恐る恐る解体用ナイフを死骸から引き抜いた。悪臭と刃物を握るという恐怖から、彼女の足はガタガタと震えていた。
そんな月野の様子を、父は気色悪い笑みを浮かべながらカメラで撮影していた。
こういうものを好むマニアがいるんだと父は言っていた。
誰もが幸せなんて、信じられなかった。
ここで刃物が怖いと調理を拒否したら、生で無理やり口の中に突っ込まれることは過去の経験から分かっている。
そんな風にして彼女は猫の死体を解体し、肉を焼いて食べた。吐きたい気持ちを懸命に堪え、猫を口に運んでいく。
後は父の機嫌さえ悪くなければ父からの暴力を受けることはない。ただ、一度でも機嫌を損ねたり逆らったりすると二時間は殴られ続ける。酷い日には煙草を押し当てられ、刃物で斬り込みを入れられた。
彼女は日々そんな恐怖に耐え続けながら、父親と過ごしていた。
夜になると、今度は妹が頭の悪そうな男を家に連れ込む。恐らくは妹の彼氏なのだろうが、彼は無駄に図体がデカく家の中を我が物顔で歩いている。
妹は月野が家にいると、思い出したように彼女のことを部屋に呼び出す。
彼らは彼女の義眼を興味深そうに見て、ケラケラと笑っている。彼らは夕食時に月野に首輪をかけて、両手をガムテープで塞いだ。
月野の首輪はテーブルに繋がれており、その可動域には限界がある。
「ほら、食えよ」
その可動域ギリギリのところに、妹は月野の食事を置いた。それは猫缶の中身だった。それを拒否すれば一日中首輪を付けられたまま解放されないのは分かり切っているので、やるしかない。
月野は首輪のままうさぎ飛びで皿の元まで向かい、犬食いで猫缶を食べた。
「あははっ。いい眺めだなあ」
手を叩いて妹の彼氏が嬉しそうに笑っている。彼らにとって、人を虐げるのが幸せなことなんだろう。
「私の毎日は、こんな風に繰り返されています」
月野は目を細めて笑っていた。それは全てを諦めたような表情に見えた。
「そんなの、あんまりだろ」
虐待に怯え、彼女は満足に自分の家に帰れない。月野は身も心も徹底的に痛めつけられていた。最低最悪の環境で、彼女はずっと孤独と戦っていたのだ。