あれから二日後、月野から連絡が入った。この時、僕は自分の心境の変化に驚いていた。月野からの連絡が入った瞬間、やっと来たかと思ったからだ。

 信じがたいことなのだが、僕は彼女から連絡が来ることを心待ちにしていたようだった。これはなんとも、良くない状況だと思う。だって、僕が今まで散々恋焦がれてきた理想の女の子と会うためには、この世界を壊す必要がある。あの壁から抜け出せない以上、そうするしかない。だが、この世界を破壊するためには月野を死に追いやる必要があるのだ。

 そのことを考えるたびに、僕は彼女のあの言葉を思い出す。

『せめて、死ぬ前にもう一度彼と会いたかった』

 彼女の死について考えている時、僕は押し潰されそうになる。胸の中の感情に名前を与えてしまいたくなる。

 恥ずかしい話、僕は月野ユキの術中にはまってしまったらしい。

『貴方には私のことを好きになって貰わないといけないってことなんです』

 これは始めて会った日、月野が僕に向けて言った言葉だ。今思えば、月野が僕をよく分からない遊びに連れ回していたのは、僕に自分自身を好かせようと思っての行動なのかもしれない。

 だとしたら完敗だった。僕は理想の彼女と同じくらい、月野ユキのことを大切だと思い始めている。

 彼女に死んで欲しくない。そんな感情に、押しつぶされてしまいそうだった。

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 約束の場所に行くと、いつも通り月野が先にいて煙草を吸っていた。

 彼女は涙目でケホケホと咳き込んでいたが、僕は何も言えなかった。

「今日は何も言わないんですね」

 月野は苦しそうに喉元を抑えながら、軽く睨んできた。「忘れたフリをしろ」と訴えているのだろう。

「まあな。ちょっと、僕も吸いたくなったから」

「そういうことですか」

 仕方ないですね、と言いながら彼女は僕にピアニッシモの箱とライターを渡してきた。

 ピンクの箱から煙草を取り出すのは少し恥ずかしかったが、別にいい。煙草を咥えてから、僕はライターの火を付けようとした。だが、どうやらオイル切れらしく、いくらやっても火が付かない。

「残念だけど今回は諦め――――」

 そこまで言ったところで、口が止まった。

「ん」とだけ呟いて、月野が咥えたままのタバコの先端を僕のタバコに押し付けたからだ。

 僕は唖然としてしまって、タバコを咥えたまま固まった。

 ジジ、と音を立てて、月野の火が僕のタバコに広がっていく。それを確認した彼女はまたゲホゲホと咳き込んでタバコを口元から離した。

「これで吸えますね」

 ぶっきらぼうに言って、月野はぷいっとそっぽを向く。

「ああ、ありがとう」

「ええ、感謝してください」

 明後日の方を向いてムスッとしている月野を見て、思った。

 ああ、やっぱりよくないな、と。

 僕はどうしようもないくらい、彼女に死んで欲しくないらしい。