次の日の朝、登校すると目の前を野田が歩いていた。歩く時も背中が丸まっていて、のそのそとしていた。どう見ても自信がないようにみえる。

 昨日はあんなにキラキラ堂々としていたのにな……。

「野田」

 気がつけば無意識に名前を呼んでいた。
 特に用事がないのに野田を呼んだのは初めてだ。というか、野田の名前を呼んだのが初めてかもしれない。野田は振り向いた。

「あっ……」

 目が合うと、野田は都合が悪いような顔をしてぱっと目をそらし、走って玄関に向かっていった。

 なんだあいつ、態度悪いな。

 教室では野田は前の席だから嫌でも目に入る。さっきの態度を思い出しイライラするのと比例して、撮影場所にいた野田のことが気になる度も上がっていく。1時限目は数学で、授業中は多分、数字よりも野田の背中ばかり見ていたと思う。

 2時限目は晴天な青空の中での体育。

 体育の授業でやる準備体操。いつもは別のやつと組むけれど、タイミングがいいのか悪いのか、そいつが休んで野田と組むことになった。そして今柔軟体操をしている。足と手を伸ばしながら座っている野田の背中をぐっと押している時に訊いてみた。

「野田って、映画とか出てるの?」

 その言葉を聞いた途端、野田の背中の筋肉が固まった気がした。そして動きを止めて振り向き言った。

「そのこと、誰にも言わないでください」
「別に言わないけど、なんで?」

 野田の長い前髪の隙間から見える瞳が揺れていた。

「みんなにバレると、なんか馬鹿にされそうで面倒だから、です」

「何それ、意味わかんねえ」

 馬鹿にされるからって好きなことを隠す気持ちが分からなかった。別に堂々とやればいいじゃん。としか思えなかった。