「須藤さん?早く病院に来て!あの子の容態が急変したの」
 浅井のお母さんから、そう電話があった。
 居ても立っても居られなくて、学校を飛び出した。
 信号待ちの時間も惜しかった。
 病院に着いた時には、浅井は手術室の中にいた。手術室の前には浅井のご両親が。浅井が助かることを祈っている。
 しばらくして、手術中のランプが消えた。
 医師は、助からなかった、息を引き取ったと言った。衝撃と焦燥感で、膝から崩れ落ちそうで医師の声は聞こえてこなかった。
 亡くなった浅井を見た時、涙が溢れて止まらなかった。同時に今までの浅井との楽しかった記憶がたくさん蘇った。

 秋晴れの日、浅井の葬儀が執り行われた。
 「須藤さん、ありがとね。この子と仲良くしてくれて。この子ね、毎日あなたの話を楽しそうにしてたの」
 お母さんが泣き微笑みながら、そう伝えてくれた。
 「須藤さん、このノート受け取ってください。自分に何かあったら須藤さんに渡してくれって頼まれたんです」
 お父さんから受け取った、黒い重厚感のあるノート。表紙を開くと、「浅井二号須藤と浅井の日記」とあった。そこには、二人で過ごした時間のことが事細かに書かれていた。あの時の鮮やかな感情が思い出される。
 最後のページには、浅井からのメッセージが。
『須藤へ。
 書きたいことがたくさんあるけど、伝えたいことに絞って伝えます。
 須藤が浅井みたいになりたいって言ってくれたこと、すっごく嬉しかった。須藤の成長も親のように嬉しかった。人の目が怖いって言ってた須藤はどこ行った?ってくらいどんどん成長してて、驚いた。
 須藤、浅井二号合格だよ!これからも頑張って!今しかできないこと、今やるんだよ!
 そばで見守ってるから。
                  浅井』
 泣くしかできない。この喪失感を埋めるには。
 「須藤さん、この子のことだけは忘れないであげて。きっと寂しがるから」
 「もちろんです。絶対忘れません」

 浅井!浅井二号の須藤です!無事卒業したよ!新しい一歩も踏み出せそうだよ。
 今しかできないこと、たくさんやっていくよ!見てて!
 浅井、頼りにしてるよ。
 そう浅井に報告して、ドアを開けた。