ある休日。用事があって浅井に会えなかった日。
 浅井は事故にあった。交差点で信号待ちをしていた時、軽自動車が突っ込んできたのだ。軽自動車の運転手は事故直前に心臓発作を起こしたらしく、病院に運ばれたが亡くなった。
 浅井は、一命を取り留めたものの、一週間経っても意識が戻らない。
 浅井のことが気になって、学校に行ってもぼーっと、機械的に時間を過ごし、放課後には浅井の見舞いに行く日々が続いた。
 そんな日々の中、浅井のご両親から浅井の意識が戻ったと連絡があった。安堵した。授業が終わった瞬間に教室を飛び出して、急いで病院に向かった。

 「浅井。大丈夫?」
 「大丈夫。めっちゃ元気。それより、須藤顔色悪いよ」
 「心配で寝れなかった。もう会えないんじゃないかって」
 浅井は、安心しろと言わんばかりの笑顔を浮かべた。
 「須藤、毎日見舞いに来てくれてたの聞いた。ありがとう」
 「どういたしまして」
 浅井の体力の許す限り、浅井の病室でしゃべっていた。退院したら何がしたい、何を食べたい、どこへ行きたい。話すことは尽きなかった。
 幸せな気持ちで心が満たされた。

 翌る日も、その次の日も、浅井に会いに行った。浅井の調子がいい時は、面会終了時間まで病室にいたので、見回りの看護師さんに怒られることもあった。
 「そういえばさ、なんで浅井はあの日の放課後喫茶店行くのに誘ってくれたの?」
 「今しかできないことしようと思って」
 「今しかできないことって?」
 「須藤を助けること。だってあの時の須藤寂しそうだったから。寄り添えるのは浅井しかいないでしょって思ったんだ」
 そう語る浅井の顔は、優しかった。