「おっはよー須藤!」
 「おはよう。朝から元気だね」
 昨日浅井が宣言してくれた通り、真っ直ぐ嘘のない目で見てくれる。
 さっきまで木陰で待っていたから、日差しが熱い。
 「あの、隣町の大学病院に行くにはどうしたらいいかしら?」
 交差点で信号待ちしてた時、おばあさんが尋ねてきた。
 何をどう言えば良いか、どうしたら良いか瞬時に判断できず、結局何も言えなかった。
 おばあさんは、困った顔をしていた。
 「ここを右に曲がったら、バス停があるんですけど、そこでバスに乗ってE大学病院前で降りたら、着きますよ」
 浅井はおばあさんに笑顔で、優しく説明した。
 「ありがとね」
 おばあさんは、そう言って微笑んだ。
 浅井がいなかったら、おばあさんは困り果ててしまっただろう。
 浅井のような行動力、コミュニケーション力があったら、おばあさんを困らせずに済んだのに。
 浅井のように、なりたい。唐突にそう思った。
 「須藤、どうした?」
 「浅井。どうしたら、浅井みたいになれる?」
 「何?もしかして憧れられてる?浅井になるためには、浅井の真似をしてみると良い、なんて」
 浅井は自分の冗談に笑っていた。
 「真似させてほしい。浅井みたいになりたいんだ」
 こちらは真剣だった。
 「いいよ。須藤、浅井みたいになってよ。浅井二号の須藤になってよ」
 浅井の言葉に、強く頷いた。

 「じゃあ早速。須藤、今日はいつも仲良くしてるメンバーと話してみよう!」
 「え、クラスの中心メンバーでしょ?それは難しすぎる。怖いよ」
 「大丈夫。浅井に任せれば大丈夫。それに、今しかできないこと、今しとかなくちゃ!」
 「そうだね。浅井、頼りにしてるよ」
 「行くよ、須藤。ねーみんな!何の話してんの?」
 「今日の放課後は何しようかって話してたの」
 「あれ?浅井、須藤と仲良かったっけ?」
 「うん!めっちゃ仲良い!」
 「浅井が迷惑かけてない?朝からこいつうるさいでしょ」
 「ねえ!それディスってるでしょ!」
 はははっと、彼らは笑っていた。
 「迷惑だなんて。いつも元気だなぁって思います」
 ドキドキしたけど、一人一人の目を見て話せた。
 「優しいんだね、須藤」
 思っていたよりも、彼らは優しくて、楽しそうだった。彼らは浅井のように真っ直ぐ自分を見てくれる。
 何も知らないで、何もしないでいた自分に言ってやりたい。自分が人を真っ直ぐ見れば、向こうも自分を真っ直ぐ見てくれる、と。

 「ありがと、浅井。浅井のおかげで人のあたたかみとか色々気づけた」
 「そっか。よかった。でも、まだまだ頑張るよー!浅井二号への道は続くから!」
 「うん!」
 それから、浅井はたくさんのことを経験させてくれた。二人で映画を観に行ってみたり、互いの家に行ってみたり。弾丸旅行にも行った。いつも浅井は「今しかできないことをするんだ!」と言って前を歩いていた。
 浅井と一緒にいれば、人の目なんて気にならない。だから浅井と自分は、最強だと思う。怖いものなど、この世界にどこにもないと感じる。二人でいれば。
 しかし、そんな夢見たいな時間は長く続くものではなかった。