人の目が怖くなったのは小学生の頃。自分が他人にどう見られているか、どう考えられているか、そういったことに思考を乗っ取られた。
 これといったきっかけはない。ある日突然、恐れるようになった。
 中学生になってから、姉にこのことを相談したことがある。しかし、「考えすぎじゃないか」「自意識過剰だ」と笑われた。
 そう笑われたくて相談したわけじゃないのに。
 心の中で泣いた。泣くしか、怯えを抑えられなかった。
 最近は怯えを抑えても、人の目をまっすぐ見れなくなった。瞳の奥にある本当の気持ちに、気づいてしまったから。

 「その、本当の気持ちって何?」
 「友だちに裏切られた。信頼してた友だちに、陰で悪口を言って笑っているのを見た。素直に受け止めなきゃよかったんだけど、友だちの瞳に自分が映っていないんだよ。自分じゃなくて、悪口の標的を見てるような気がして、自分を誤魔化すのが厳しくなった。だから、その友だちから離れて、それっきり。それっきり、信頼できる人が側にいない」
 「寂しくないの?」
 浅井が心配そうに、こちらの目をのぞいた。その目は心の窓をそっと開けて、自分をゆっくり見てくれているような気がする。
 「寂しいよ。本当はもっと自分を見てくれる人に、側にいて欲しい」
 「じゃあ、須藤のこと真っ直ぐ見る!須藤が安心して人の目を見られるように」
 浅井は笑顔で、真っ直ぐ言った。
 嬉しかった。暗闇に光をくれたようで。そっか、この言葉が欲しかったんだ。
 「自分って、こんなこと思って、考えてたんだな」
 「新発見?よかった。役に立てたみたいだね」
 浅井に頷いた。
 浅井はフルーツパフェとクリームソーダを店員さんから受け取り、口一杯に頬張った。幸せそうに。
 「ありがとう。なんか心が軽くなった気がする」
 「どういたしまして。明日、学校の近くの公園の前で待ってて!」
 何が何だか分からないけど、うん、と頷いた。