迷いの森、リヴェルの元を出発し、次はエイリーンのため神の塔に向かうコウルたち。

まずは中央大陸に向かうべく、港町の方へ戻り始めた。

道中、何回かモンスターに遭遇するも、リヴェルの元で鍛えたコウルの敵ではない。

行きよりもはるかに早い時間で港町に帰ってくる。

早速、中央大陸に向かう船を探すがーー。

「中央大陸に行く船はない?」

港の人々にそう言われる。

中央大陸は中央大陸と呼ばれてはいるが、

その実、人はほとんど住んでないといわれ、そんなところに船を出す人はいないとのことだ。

「……どうする?」

「ポムさんたちはもういませんし……」

二人が途方に暮れている様子を見て、一人の町人がからかうように言った。

「小舟でいいならやるぜ?」

だが、コウルたちはそれを聞くとーー。

「それでいいです!」

すぐさま返事をした。

「いざ、中央大陸へ!」

二人を乗せた小舟。コウルはそれをせっせと漕ぎ始める。

それを見る町人たち。

「冗談のつもりだったんだが……」

「あれで中央大陸になんて無茶だよねえ」

コウルたちには当然聞こえてはいない。

二人は果たして中央大陸に辿り着けるのか。



数時間後、舟は海上にゆっくり漂っていた。

コウルが漕ぎ疲れてしまったからだ。

「わたしが漕ぎましょうか?」

エイリーンが言うが、コウルは首を横に振る。

「エイリーンさんにさせるわけには……」

ならと、エイリーンはコウルの漕ぎ棒をひとつ取り「一緒に漕ぎましょう」と言う。

エイリーンの輝く瞳に見つめられ、コウルは苦笑いしと了承する。

二人はゆっくりと中央大陸に向かっていく。

しかし、数日後……。

「着きませんね……」

「そうだね」

二人は休憩して、舟は風の流れのままに漂う。

何故小舟で行けるのかなどと思ったのか、コウルは自分の浅はかさを恨んだ。

だが、エイリーンはというと。

「コウル様との舟の上の生活は楽しいです」

その言葉にコウルは真っ赤になる。

ただでさえ、狭い舟の上で二人きりだというのに、エイリーンはなんとも思わないのかなあ、とコウルは思う。

だがエイリーンも、今のは勇気を出した一言だと、コウルは気づいていなかった。

さらに数日、そろそろ食料が少なくなってきた頃、ついに中央大陸が見えてきた。

「つ、ついた……」

小舟を岸に近づける。そこから見えるのはひとつの線。

「もしかして、あれが……」

陸に上がり改めて線を見る。それは天をも貫く長大な塔。

間違いなくあれが『神の塔』だとコウルは感じた。

神の塔へ向けて二人はひたすら歩く。

道なき道を真っ直ぐ真っ直ぐ、コウルとエイリーンが初めて出会った荒野よりも、何もない野を。

食料がなくなりそうな頃、ついに二人は塔にたどり着いた。

「はあ、ついたあ」

入り口で息を吐くと、コウルは塔の扉を開ける。

中は綺麗な装飾がしてあり、その中央には螺旋階段。

「まさかこれを上るの?」

外から見た塔は天を貫いている。螺旋階段も上の終わりが見えない。

「でも、行くしかありません」

エイリーンが先に階段を上り始める。コウルは慌てて後を追った。

しばらく上ると、広い一角に着く。中央には台座のような物がある。

「これは……」

エイリーンが台座に触れる。

エイリーン、そして台座からまばゆい光が放たれ、外から見ると塔全体が光の柱に包まれた。

「これはーーエイリーンさん!?」

エイリーンが光に包まれている。コウルは近づこうとするが光は収まった。

「大丈夫? エイリーンさん」

「……全て思い出せました」

「え?」

その時だった。

エイリーンの背後に二つの影が降り立つ。

「おかえりなさいませ。エイリーン様」

「ありがとう。ワルキューレたち」

二つの影、ワルキューレに声をかけると、エイリーンはコウルに向き直る。

「コウル様、来てください。招待します」

「招待? どこに?」

塔の螺旋階段とは別に光の階段が出現する。

「神界へ」



エイリーンとワルキューレに連れられ、光の階段を上るコウル。

しばらくすると、コウルの視界が光に遮られ、気がつくと、神殿のような場所にいた。

「ここが、神界?」

「はい」

ワルキューレが答える。だがすぐに、神殿の奥に進み出す。

コウルはついていくしかない。

そして神殿の最奧。

コウルたちの前にいるのは女性。偉い立場なのか、座る椅子は高い。

「エイリーン、戻りました」

エイリーンが目の前にいる女性にひざまずく。二人のワルキューレも。

コウルも空気を読んで、その場にひざまずいた。

「よく戻りました。エイリーン。私は心配していましたよ」

「申し訳ありません」

「責めているのではありません。本心ですよ」

「あ、ありがとうございます。『エイナール』様」

(エイナール?)

それはたしかエイリーンの名字。それを名前に持つ彼女は一体何者なのか。

「そして、コウル」

「は、はい!」

急に自分に話が振られ、コウルは驚く。

「よくエイリーンをここまで連れてきてくれました」

「い、いえ」

慈愛に満ちているが、その雰囲気は逆らえない圧をコウルは感じる。

「質問してもよろしいでしょうか?」

コウルが立ち上がって問う。

「貴女は何者なんですか」

「そうですね。貴方はまだ知りませんでしたね。エイリーン、教えてあげなさい」

「はい」

エイリーンも立ち上がり、コウルの方を向くと宣告した。

「このお方は、この世界を司る神属の一人。女神エイナール様です」

「女神……?」

「そしてわたしはその下に仕える、女神見習いエイリーン・エイナールです」