「ジン……」

「やっと見つけたぞ……カズ!」

「ジン、今の俺はカズではない。『カーズ』だ。それを忘れるな」

親友同士の視線がぶつかる中、コウルとエイリーンはようやく追いつく。

「あれが……カーズ?」

問いかけるコウルに、ジンが頷く。
カーズはコウルの方を見ると。

「ほう……元の世界の奴をつれているのか。ジン。そして……うん?」

カーズとエイリーンの目が合う。

するとエイリーンは突然恐怖の表情を浮かべ後ずさる。

「あ、ああ……」

「貴様……生きていたのか」

エイリーンは頭を抱え、うずくまる。

「だ、大丈夫。エイリーンさん!?」

コウルがエイリーンを支える。

ジンはそれを見るとカーズの方を向き直る。

「エイリーンちゃんと何があった?」

「お前が知る必要はない」

カーズは一瞥する。

「本気で元の世界を滅ぼす気なのか」

「今更それを聞くのか?」

「考え直す気は」

「ない」

短い問いかけと回答。

それが終わると、ジンはそっと腰の剣を抜いた。

「仕方がない。カズ……いや、カーズ! お前をここで止める!」

カーズはそれを見ると、自分も禍々しい剣を構えた。

「コウルくん。エイリーンちゃんは任せた」

「は、はい!」

確認すると、ジンは飛び上がった。

「はあっ!」

「ふん!」

ジンとカーズの剣がぶつかり合う。

その衝撃を合図にしたかのように、町の人たちは一斉にその場を離れだす。

コウルはエイリーンを連れ、人の波に混ざり距離を取る。

だが――。

「元の世界の男は死んでもらう。そして女! 生きていたのなら再び我が計画の糧となれ!」

カーズが指を鳴らすと、どこからともなく骨のモンスターが出現する。

「モンスターを操るだと!? カーズ、お前は一体……?」

骨のモンスター『アンデッド』たちはコウルとエイリーンの方へゆっくり動き出す。

それを見ると、ジンも二人の方へ向かおうとするが――。

「俺を止めるのではなかったのか?」

カーズの剣の一閃がそれを邪魔する。

「くっ!」

「お前はおとなしく俺の相手をしていればいいのだ!」

カーズの連続攻撃を防ぐジン。とても助けに行きつつ戦える状況ではない。



「モ、モンスター……」

コウルはアンデッドの大群にたじろぐ。

だが、横で震えているエイリーンを見て、守らないといけないと勇気を振り絞る。

「エイリーンさんは、ここに」

エイリーンを建物に寄りかからせ、コウルは剣を抜くと。

「あいつらは僕が……止めてみせる!」

アンデッドたちの群れに突撃する。

(ジンさんから習ったとおりにやれば!)

魔力を集中し、全身に巡らす。コウルの力が解放される。

「やあっ!」

コウルの剣は綺麗な振り方とは言えないが力強い一撃を放ち、アンデッド一体を粉砕した。



「コウルくん、あれなら大丈夫だな」

斬りあいながらも、コウルの様子を確認しながらジンは呟く。

「余裕だな!」

カーズの強い一撃。ジンはそれを防いで間合いを開け話し出す。

「なあ、『カズ』。命がけじゃないとはいえ、昔もよくこうやって勝負したよな」

「なにを言い出す……」

「あの頃には戻れない。だが、元の世界を滅ぼしてどうなる。それでお前は満足なのか!」

「……」

カーズが剣を降ろす。

それをジンは諦めてくれたと感じ、近寄って……とっさに後ろに飛んだ。

あと少し遅ければ、剣がその身に直撃するところであった。

「ジン、俺は満足だよ! あいつがいない世界など! くだらん連中がいる世界など! 滅んでしまえばいい!!」

「カズ……」

ジンは悲しみの表情を浮かべる。

親友の変貌、ここまで病んでいた親友を助けれなかった自分。その両方が悲しかった。

「哀れみか? 悲しみか? だがお前にそんな暇があるのかな」

カーズが指した方をジンは向く。

コウルがアンデッドの大群に押されていた。



「くっ……」

幸先よくアンデッドを撃破していたコウルだったが、数の暴力に押され少しずつ消耗していた。

「この――!」

剣がまた一匹、アンデッドに直撃し破壊する。しかし数は一向に減らない。そして――。

「きゃあ!」

アンデッド数体がコウルを抜き、エイリーンの方へと向かっていた。

「エイリーンさん!」

コウルはエイリーンの元へ向かいたいが、アンデッドの群れに遮られる。

さらにその隙を付かれ、アンデッドの一撃がコウルの顔面を掠め、眼鏡が落ちる。

「!」

眼鏡が落ち、ふらついたコウルにアンデッドの一斉攻撃が続く。

「終わったな」

「コウルくん!」

ジンが駆けつけるには距離がある。

カーズの言う通り、アンデッドの攻撃で終わりかと思われた。

だが――。

「ど……け」

コウルに覆いかぶさっていたアンデッドが揺れる。

「どけーーっ!!」

アンデッドがはじけ飛ぶ。

そこから現れたのは、いつもの優しい目から一転、獣のような目をしたコウルだった。

アンデッドを蹴散らし、エイリーンの前に立つ。

「エイリーンさんは『俺』が守る!」



「なんだと……」

「……」

変貌しアンデッドを葬るコウルに、ジンとカーズは久しぶりに息があった。驚きでだが。

「コウルくんの魔力は私以上だったが、ここまで力を出せるとは……」

その呟き。その一瞬だった。カーズが先に動き出していたのは。

「しまっ――!」

一瞬でカーズはコウルに近づく。コウルはアンデッドに剣を振るうのに夢中で気づかない。

「終わりだ!」

「!」

コウルが気づくころにはもう遅い。カーズの剣が振り上げられる。

そして――。

「がっ……!」

間に割って入ったジンに剣が直撃した――。

「な――ジン!?」

「ジン……さん!?」

ジンは剣を受けたまま後ろに倒れる。

コウルは獣の目が元に戻り、慌てて受け止める。ふらつきそうな所をエイリーンも出て支えた。

「ジンさん!」

「ジン様!」

ジンを寝かせ、呼びかける。

この世界だからだろうか。血は出ていない。変わりか魔力の光が傷口から漏れ出ている。

「コウル……くん。無事で何よりだ……」

「ジンさん! ……そうだ、エイリーンさん!」

コウルは思い出す。自分の腕を治したエイリーンの力を。

エイリーンも気づくと、ジンに向かって手をかざす。

光が広がりジンの傷を覆う。……しかし光は拡散してしまった。

「そんな……!」

「致命傷……かな」

ジンは悟ったような口調で目を瞑る。

再び目を開けると今度はカーズの方を見る。

「これでも、まだ辞める気はないのか……カズ」

「……チッ。興がそがれた」

カーズは振り向くとその場を去る。

「さよならだ……ジン」

その一言を残して。



「ジンさん……」

「コウル……くん。本当は私が止めたかったが……。私に変わりカズを止めてくれないか?」

「それがジンさんの頼みなら……」

コウルは頷く。明確な目標だったジンの言葉。それを受け継ぎたかった。

「エイリーン……ちゃん」

「は、はい」

「きみはまず記憶を取り戻すんだ。カズとの関わりつなぎ、思い出せばきっとコウルくんの力になれる」

エイリーンも頷く。

「うん。二人ならやっていけるさ。すまないな……さようならだ」

そう言った瞬間、ジンの体は魔力の光となって消えていった。

「ジンさん!」

「ジン様!」

二人の叫びが響く。涙が流れる。

その涙に混ざるように雨が降り出し始めていた。