その日、コウルはいつものように眠りに落ちていた。
そして、いつものように――
「孝瑠ー、朝よー。起きなさいー!」
「はーい……。……って!?」
コウルは跳ねるように飛び起きる。
そこは異世界エイナールではなく、現実世界のコウルの家。そして今の声はコウルの母の声だった。
(え、な、なんで……)
コウルは状況がつかめず慌てるが、落ち着き直すとまず思い出し始めた。
(エイリーンの熱が下がって……心配だったけど旅に戻って……それから何日か経って、野宿をして……)
そしてコウルは気づいた。
(野宿の後の記憶がない――)
つまり野宿の時に何かあった。そうに違いないとコウルは感じる。
(そういえば、エイリーンの様子がおかしかった……)
コウルは野宿の時のエイリーン思い出す。
熱は下がっていたはずだが、エイリーンは明らかになにか苦しそうにしていたことを。
「孝瑠ー! 学校、遅刻するわよー!」
「う、うん。今行く!」
状況がわからないながらも、現実世界にいるコウルは学校に行くしかない。
カバンを取りコウルは準備をするしかなかった。
「……」
その日、コウルは学校で考え事しかしていなかった。
授業であてられても上の空で、怒られても気にしていなかった。
学校が終わると、コウルはすぐに帰路にある公園に向かう。
コウルが異世界エイナールへと飛ぶきっかけの光が落ちてきた公園。
ここならば何かあるのではとコウルは考えた。しかし――。
「何も……ない」
周りにいる人たちの視線を無視し、片っ端から公園を回ったコウルだったが、結局何も手がかりはなかった。
「……」
その後の数時間、コウルはあてもなくブランコに乗っていた。
「エイリーン……」
コウルの呟きが、誰もいなくなった公園に消える。
そのままブランコでゆっくり揺れているコウルに一つの影が近づいた。
「孝瑠くん……?」
「え……?」
コウルが顔を上げるとそこには一人の少女が立っていた。
その制服はコウルと同じ学校の女生徒の服であり、コウルはその少女に見覚えがあった。
「鈴花……さん?」
「はい」
少女、鈴花(リンカ)はコウルの目線に合わせると頷いた。
「どうしてこんな時間に?」
「部活の帰りです。孝瑠くんはこんな時間にブランコで何を?」
「えっと――」
コウルは何て言うかを考える。
異世界に行って? 旅をして? 気づいたら元の世界に戻って?
(ダメだ。とても信じてもらえうわけない。夢とバカにされるだけだ……)
考え込むコウル。それをじっと見つめる鈴花。
その純粋に自分を心配してくれていると思う目に、コウルは口を開いていた。
「実は――」
コウルは語り始める。異世界エイナールのこと。旅のこと。そしてエイリーンのこと。
それを鈴花は何も言わずじっと聞いている。
「――という訳なんだけど」
「……」
無言の鈴花にコウルは今更恥ずかしくなる。
(やっぱり信じてもらえないよね……)
しかし――。
「大変でしたね。孝瑠くん」
鈴花は、ブランコに座っているコウルをそっと撫でる。
彼女はバカにせず、ただ慈愛の目を持ってコウルに接した。
「信じて……くれるの?」
「ええ。嘘を言ってないのはわかります。……それとも嘘なんですか?」
「そ、そんなわけないよ!」
コウル慌てて手を振る。その様子に鈴花は笑った。
その笑顔を見てコウルは思う。
(鈴花さんって髪の色も声質も全然違うけど、なんかエイリーンっぽいな……)
そう考えてから慌てて首を振った
(ってなに考えてるんだ。エイリーンがいるっていうのに僕は!)
考えを変えようとコウルは強引に話を戻そうとする。
「で、えっとどうやったら――」
「どうやったら、その異世界エイナールに戻れるか……ですね?」
そう、1日中コウルが考えていたこと。そしてどうにもなっていないこと。
「孝瑠くんの中で、何でもいいので他に手がかりや、思い出せることはないんですか?」
そう言われてコウルは再度思考を巡らせる。
「そういえば……」
ひとつだけコウルは気が付いた。
「カーズの塔で見た歪み。どこかで見た気がする」
「それは……?」
コウルは記憶を辿っていく。
わりと近く。コウルの知っている場所。鳥居が思い出される。
「そうだ、以前行った隣町の神社!」
コウルは立ち上がると早速駆け出した。
「私も行きます」
「え、でも……」
「ここまで聞いて今更関わらせたくないは無しです」
そう言うとコウルを抜いて先に進みだした。
「ま、待って――」
コウルはその彼女、鈴花を慌てて追いかける。
時間を気にせず、コウル達は夜の闇の中を隣町に進む。
そして隣町の神社までやってきた。
二人は神社内をゆっくり探しながら進んでいく。
「何もないですね……」
「いや待って。何か聞こえる」
コウルは神社の境内の裏に走る。鈴花もそれを追って走る。
「――」
「ここだ」
そこには、コウルが異世界エイナールに飛んだ時と似た光があった。
コウルはそれにそっと触れる。
「やっと……繋がったわね。聞こえる、コウル」
「その声は……エルドリーンさん?」
コウルはすぐにエイリーンの声が聞けなかったことに少し落胆しつつも、異世界エイナールに繋がったことに安堵する。
「そう。まったく、気づくのが遅すぎるわ」
「ご、ごめんなさい。えっと、何があったんですか?」
「ええ。よく聞きなさい」
エルドリーンは語り始める。
「あの時、シズクって子が放った闇の魔力。あれがちょっと厄介なものでね。
エイリーンお姉さまはあなたを守った時にダメージを受けてしまった。それで闇の魔力に浸食されはじめてるの。
そしてヤバくなったから、あなたを仕方なくそちらに逃がしたわけ」
「そ、そんな! なんで元のこっちの世界に!?」
「あなたはエイリーンと女神の契約を結んでいる。そのまま一緒にいたらお姉さまの浸食があなたにも影響を与えていた。
だから影響がないようそっちの世界に送った。……たぶんそんなとこでしょうね」
エルドリーンは淡々と告げる。
最後にコウルは一番大事なことを聞いた。
「それで今エイリーンは……!?」
「……なんとか浸食に耐えているようだけどそろそろ限界かしらね」
「っ……!」
コウルはそれを聞くと叫んだ。
「エルドリーンさん、そっちに戻る方法は!?」
「来る気? 聞いてなかったの、今こっちに来たらあなたにも影響が出るわよ」
「それでも!」
そうそれでも、コウルにはエイリーンを見捨てることなどできなかった。
「はあ、わかったわ。戻る方法、簡単よ。私がこっちから魔力で歪みを作るからそこに飛び込んで」
「うん!」
その声に合わせて、光が広がり、異世界エイナールへつながる歪みが広がる。
コウルはそれを確認すると飛び込む前に――。
「鈴花さん、ここまでありがとう。僕、行くね」
そう言って飛び込もうとした時だった。コウルの腕が掴まれる。
「鈴花……さん……?」
「私も……一緒に行っていいですか」
鈴花のその一言にコウルは驚いた。
「でも、そのめったなことがない限り、こっちには戻れないよ?」
「構いません」
鈴花の目は真面目にコウルを見つめる。それを見てコウルも覚悟を決めた。
「行くよ。しっかり捕まって!」
コウルはそう言って鈴花の手を掴むと、開いている歪みに飛び込んだ。
そして、いつものように――
「孝瑠ー、朝よー。起きなさいー!」
「はーい……。……って!?」
コウルは跳ねるように飛び起きる。
そこは異世界エイナールではなく、現実世界のコウルの家。そして今の声はコウルの母の声だった。
(え、な、なんで……)
コウルは状況がつかめず慌てるが、落ち着き直すとまず思い出し始めた。
(エイリーンの熱が下がって……心配だったけど旅に戻って……それから何日か経って、野宿をして……)
そしてコウルは気づいた。
(野宿の後の記憶がない――)
つまり野宿の時に何かあった。そうに違いないとコウルは感じる。
(そういえば、エイリーンの様子がおかしかった……)
コウルは野宿の時のエイリーン思い出す。
熱は下がっていたはずだが、エイリーンは明らかになにか苦しそうにしていたことを。
「孝瑠ー! 学校、遅刻するわよー!」
「う、うん。今行く!」
状況がわからないながらも、現実世界にいるコウルは学校に行くしかない。
カバンを取りコウルは準備をするしかなかった。
「……」
その日、コウルは学校で考え事しかしていなかった。
授業であてられても上の空で、怒られても気にしていなかった。
学校が終わると、コウルはすぐに帰路にある公園に向かう。
コウルが異世界エイナールへと飛ぶきっかけの光が落ちてきた公園。
ここならば何かあるのではとコウルは考えた。しかし――。
「何も……ない」
周りにいる人たちの視線を無視し、片っ端から公園を回ったコウルだったが、結局何も手がかりはなかった。
「……」
その後の数時間、コウルはあてもなくブランコに乗っていた。
「エイリーン……」
コウルの呟きが、誰もいなくなった公園に消える。
そのままブランコでゆっくり揺れているコウルに一つの影が近づいた。
「孝瑠くん……?」
「え……?」
コウルが顔を上げるとそこには一人の少女が立っていた。
その制服はコウルと同じ学校の女生徒の服であり、コウルはその少女に見覚えがあった。
「鈴花……さん?」
「はい」
少女、鈴花(リンカ)はコウルの目線に合わせると頷いた。
「どうしてこんな時間に?」
「部活の帰りです。孝瑠くんはこんな時間にブランコで何を?」
「えっと――」
コウルは何て言うかを考える。
異世界に行って? 旅をして? 気づいたら元の世界に戻って?
(ダメだ。とても信じてもらえうわけない。夢とバカにされるだけだ……)
考え込むコウル。それをじっと見つめる鈴花。
その純粋に自分を心配してくれていると思う目に、コウルは口を開いていた。
「実は――」
コウルは語り始める。異世界エイナールのこと。旅のこと。そしてエイリーンのこと。
それを鈴花は何も言わずじっと聞いている。
「――という訳なんだけど」
「……」
無言の鈴花にコウルは今更恥ずかしくなる。
(やっぱり信じてもらえないよね……)
しかし――。
「大変でしたね。孝瑠くん」
鈴花は、ブランコに座っているコウルをそっと撫でる。
彼女はバカにせず、ただ慈愛の目を持ってコウルに接した。
「信じて……くれるの?」
「ええ。嘘を言ってないのはわかります。……それとも嘘なんですか?」
「そ、そんなわけないよ!」
コウル慌てて手を振る。その様子に鈴花は笑った。
その笑顔を見てコウルは思う。
(鈴花さんって髪の色も声質も全然違うけど、なんかエイリーンっぽいな……)
そう考えてから慌てて首を振った
(ってなに考えてるんだ。エイリーンがいるっていうのに僕は!)
考えを変えようとコウルは強引に話を戻そうとする。
「で、えっとどうやったら――」
「どうやったら、その異世界エイナールに戻れるか……ですね?」
そう、1日中コウルが考えていたこと。そしてどうにもなっていないこと。
「孝瑠くんの中で、何でもいいので他に手がかりや、思い出せることはないんですか?」
そう言われてコウルは再度思考を巡らせる。
「そういえば……」
ひとつだけコウルは気が付いた。
「カーズの塔で見た歪み。どこかで見た気がする」
「それは……?」
コウルは記憶を辿っていく。
わりと近く。コウルの知っている場所。鳥居が思い出される。
「そうだ、以前行った隣町の神社!」
コウルは立ち上がると早速駆け出した。
「私も行きます」
「え、でも……」
「ここまで聞いて今更関わらせたくないは無しです」
そう言うとコウルを抜いて先に進みだした。
「ま、待って――」
コウルはその彼女、鈴花を慌てて追いかける。
時間を気にせず、コウル達は夜の闇の中を隣町に進む。
そして隣町の神社までやってきた。
二人は神社内をゆっくり探しながら進んでいく。
「何もないですね……」
「いや待って。何か聞こえる」
コウルは神社の境内の裏に走る。鈴花もそれを追って走る。
「――」
「ここだ」
そこには、コウルが異世界エイナールに飛んだ時と似た光があった。
コウルはそれにそっと触れる。
「やっと……繋がったわね。聞こえる、コウル」
「その声は……エルドリーンさん?」
コウルはすぐにエイリーンの声が聞けなかったことに少し落胆しつつも、異世界エイナールに繋がったことに安堵する。
「そう。まったく、気づくのが遅すぎるわ」
「ご、ごめんなさい。えっと、何があったんですか?」
「ええ。よく聞きなさい」
エルドリーンは語り始める。
「あの時、シズクって子が放った闇の魔力。あれがちょっと厄介なものでね。
エイリーンお姉さまはあなたを守った時にダメージを受けてしまった。それで闇の魔力に浸食されはじめてるの。
そしてヤバくなったから、あなたを仕方なくそちらに逃がしたわけ」
「そ、そんな! なんで元のこっちの世界に!?」
「あなたはエイリーンと女神の契約を結んでいる。そのまま一緒にいたらお姉さまの浸食があなたにも影響を与えていた。
だから影響がないようそっちの世界に送った。……たぶんそんなとこでしょうね」
エルドリーンは淡々と告げる。
最後にコウルは一番大事なことを聞いた。
「それで今エイリーンは……!?」
「……なんとか浸食に耐えているようだけどそろそろ限界かしらね」
「っ……!」
コウルはそれを聞くと叫んだ。
「エルドリーンさん、そっちに戻る方法は!?」
「来る気? 聞いてなかったの、今こっちに来たらあなたにも影響が出るわよ」
「それでも!」
そうそれでも、コウルにはエイリーンを見捨てることなどできなかった。
「はあ、わかったわ。戻る方法、簡単よ。私がこっちから魔力で歪みを作るからそこに飛び込んで」
「うん!」
その声に合わせて、光が広がり、異世界エイナールへつながる歪みが広がる。
コウルはそれを確認すると飛び込む前に――。
「鈴花さん、ここまでありがとう。僕、行くね」
そう言って飛び込もうとした時だった。コウルの腕が掴まれる。
「鈴花……さん……?」
「私も……一緒に行っていいですか」
鈴花のその一言にコウルは驚いた。
「でも、そのめったなことがない限り、こっちには戻れないよ?」
「構いません」
鈴花の目は真面目にコウルを見つめる。それを見てコウルも覚悟を決めた。
「行くよ。しっかり捕まって!」
コウルはそう言って鈴花の手を掴むと、開いている歪みに飛び込んだ。