カーズの横に立ち、コウルに一撃を入れた者。それはジン。

「ジン……さん?」

「この魔力は……間違いなくジン様本人です。なぜ……」

ジンは何も答えない。そこにシズクが答える。

「ジンもお兄様と同じです。魔力を感知し、私が術で復活させました。ただ――」

シズクの言葉にカーズが続けた。

「ジンは相変わらず俺を止めようとした。俺や、自分を復活させたシズクの言うことも聞かずにな」

「――なので、ジンには悪いと思いましたが私の意思に従う人形になってもらいました」

そこはシズクも悪く感じているのか顔を伏せる。

「気にするなシズク。どうせジンはもう俺たちの知っている奴ではない」

「お兄様が仰るならば」

シズクが顔を上げる。それとともにカーズは剣を構えた。横にいるジンも同じく。

「はあっ!」

カーズとジンが突撃する。

「くっ!」

コウルも女神聖剣を構えなおすが――。

「ふっ!」

「……」

カーズ、そして人形であるはずのジンは素晴らしいコンビネーションを発揮する。

「う、うわっ!?」

「コウル!」

翻弄されるコウル。すぐにエイリーンが援護しようとするが――。

「させません」

シズクが妨害する。状況はまたコウルたちに不利になっていく。

(カーズとジンさんのここまですごいコンビネーション。並みの友達でここまではできない!)

(素晴らしい親友、だったということですね……)

コウルとエイリーンは、親友だったのに決別したジンとカーズを悲しむ。

だが、戦闘はそんなことを考えていられる状況ではない。

「なら――!」

コウルは後ろに大きく下がると魔力を高め、高速で移動する。

「む――!」

女神聖剣の力を使い高速で移動するコウルに、さすがのカーズも追うのに苦労する。

そこをコウルは横から一気に接近し――。

「うおおおっ!」

剣を振り下ろそうとして――振り切れなかった。

まるでコウルの行動を読んだかのように、ジンが間に立ちふさがったからだ。

人形と化しているとはいえ、コウルは恩のあるジンに剣を振り下ろせない。

「フ、そうだったなジン。お前はこういうことによく気が付く奴だった!」

ジンの陰からカーズが剣を突き出す。コウルはとっさにそれを防ぐが、弾き飛ばされた。

「コウル、大丈夫ですか!?」

「う、うん。だけどまいったな。ジンさんに完全に動きを読まれた」

エイリーンがコウルを支え立つ。だが状況は変わらない。不利なままである。

「コウル……だったな」

突然、カーズがコウルに語り掛けた。

「な、何ですか。急に」

「今更だが聞こう。俺と来る気はないか?」

「え……?」

今までの戦いから一転。急な問いにコウルは戸惑う。

「よく観察するジンを見習い、俺も貴様を見て感じた。貴様は俺側の人間だと」

「な、なにを見てそんな――」

「貴様は元の世界で馴染めていなかった。違うか?」

「!!」

コウルは図星だ。確かにコウルは現実世界での学校生活に馴染めず悩んでいた。

「俺なら、貴様を正しく使ってやれる。来い。俺の元に」

「っ……」

コウルがふらつく。図星を疲れたことにショックを受けている。

「コウル!」

「!」

横にいるエイリーンがコウルの手を握る。コウルはそれでハッとした。

「カーズ。貴方の元には行きません」

「ほう?」

カーズはあまり驚かない。エイリーンがコウルに呼びかけた時点で予測できたことだと。

「確かに僕は、元の世界で馴染めていなかったし悩んでた。けれど貴方みたいに世界を滅ぼしたいほどじゃない! それに……」

コウルがエイリーンの方を見る。

「今の僕には、エイリーンがいる。僕が好きな女性が。その彼女が貴方を止めると言っている。だから僕はそれを助ける!」

コウルの力強い言葉。その言葉にエイリーンは喜び、カーズは『フン』とせせら笑う。そんな中一人シズクは――。

「恥ずかしくないのですか?」

と呟いた。

その呟きに、コウルとエイリーンは真っ赤になった。

「ふん、まあいい。来る気がないなら貴様らはここで死んでもらうだけだ!」

カーズはそう言うと、シズクから魔力を受け取り詠唱を始める。

「させ――」

「遅いっ!」

赤くなっていたコウルは反応が遅れ、カーズが術を放つ。

「うわあっ!?」

「きゃあっ!」

二人はカーズが放った闇の鎖に縛られてしまった。

「こ、こんなの……!」

二人は魔力を込め鎖を外そうとするが、全く外れる気配はない。

「無駄だ。貴様らの魔力がいくら強かろうが、これを外すのは至難の業。そして――」

カーズが剣を振り上げ、コウルたちに近づく。

「さすがの貴様らも、動きが封じられていてはどうすることもできまい!」

カーズの剣が振り下ろされる。その直前だった。コウルの懐で何かが光った。

「なにっ!?」

光に反応しカーズの剣が止まる。そこに光はさらに強く輝いた。

「驚いた。渡してこんなに早く使われるなんて思っていなかったわ」

光が収まりそこに立っていた者。それはエルドリーンだった。