コツ、コツ、コツ……

偶然にも入院病棟の中は驚くほど静かで、ゆっくりめに歩いている私の足音だけが薄暗い空間に響いていた。

お父さんの病室を離れ、いくつかの病室の側を通り過ぎ、少しずつ小児科のフロアへと近づいていく。

そのうち、一歩踏み出すごとに段々と私の足音以外の音が耳に入ってきた。

「こーら、廊下は走っちゃダメって言ったでしょう!」

「ごめんなさーい!」

「ねーえー、はやくはやくー!」

小さな子たちがバタバタと騒ぐ音。それを叱る看護師さんの声。

——そして。

「……♪、〜♪〜〜♪」

ピアノの音が、かすかに聴こえてきた。

「あ、ピアノ……」

きっとこれがお父さんの言っていたものだろう。

どうやら私は運良くその現場に居合わせることができたらしい。

せっかくなら少し聴いてみたいなと思い、どこから聴こえているのか確かめるために耳をすませる。

すると目の前で子供たちが騒ぎながら1つの部屋に入っていくのが見えた。

「はやくはやく!天音(あまね)にーちゃんのピアノはじまったよ!」

「まってー、いまいくー!」