お父さんのいる入院病棟は小児科の入院病棟を通り抜けた先にある。

ここはつい最近建物の改修工事を行ったらしく、すごく綺麗だなというのが私がここにきて最初に抱いた感想だ。

古めな病院は少し怖くて抵抗があるから新築なのかというほど綺麗な病院で良かったとつくづく思う。

「それじゃあ、私はこれで帰るね」

「気をつけて帰れよ……っと、お前にいいこと教えてやるよ」

数十分後。そろそろ帰ろうと立ち上がったところをお父さんに引きとめられ、思わず動きを止めた。

それにしてもその怪しげな不審者みたいなセリフはどうにかならないのだろうか。

「ここに来るまでに小児科か?の入院病棟通るだろ?そこにな、ピアノがすげーやつがいるんだ」

「ピアノ?」

「おう、多分乃愛と同い年くらいの子なんじゃないか?それくらいの少年が昨日弾いてるのをたまたま聴いてな。それがめちゃくちゃすごかったんだよ。とにかくすごいから……まぁ、運が良ければ帰りに聴けるかもな」

「ふふっ……わかった、頭の片隅に置いておくね」

お父さんの語彙力のなさに私は思わず笑みをこぼす。

それと同時に私の頭は自然とその子のことを考えて始めていた。

ピアノが上手な同い年くらいの男の子。そんな人がこの病院にいたんだ。

私は弾いたことがないから、弾ける人が少し羨ましいと思ってしまう。

正確に言うとせいぜい鍵盤に触れて音を鳴らしたことしかない。

美久の家にお邪魔するたびに、よくピアノに触って遊んでいたものだ。

彼女は中学3年生までピアノを習っていて家には立派なグランドピアノが置いてある。

今は習い事をやめてしまったけれど、時間があるときに軽く弾いているそうだ。

最近は2人とも忙しくてお互いの家に遊びに行くことがあまりないから、今度またお邪魔してピアノに触れてみようか。

楽しくて懐かしい思い出に思わず頬が緩んでしまったのは内緒の話。