そうしているうちに私は目的地である自分の家の前へとたどり着いた。
表にかかっている「雨夜」の表札にちらりと目をやると、ホコリをかぶって少し汚れているように見える。
あとで払っておこう。
「ただいま……お母さん」
玄関のドアを開けて中に入り、そばに置かれている一枚の写真をそっと手に取った。
まだ小学生だった頃の私と、お父さんとお母さんと。満面の笑みを浮かべた私たちの姿がおさめられている。
見ていると今にもキャッキャと笑い声が聞こえてきそうなほど私は幸せそうに、楽しそうに笑っていた。
……今はもう、そんな光景は見れない。
写真をしばらく見つめた後、私はいつもしているように静かに口を開いた。
「今日ね、お父さんが酔っ払いまくって生肉いっぱい食べちゃったせいで食中毒なって、それで入院することになったの。ほんとにバカだよね」
これは私が毎日欠かさずやっていること。
亡くなったお母さんにその日の出来事を話すようにしている。
ぽつりぽつりと話していると思わず涙がこみ上げてきそうになった。
それを私は必死に抑え、にこりと笑みを浮かべる。
こんなことで天国のお母さんを心配させるなんてできるわけがない。
「あ、でもねお医者さんによると数日で退院できるんだって。だから安心してね、お母さん。私たちは今日も元気だよ」
お父さんも、私も今日まで2人で仲良く元気に過ごしている。
お母さんもきっと喜んでくれているはずだ。
少しして私は写真を元の位置に丁寧に戻し、靴を脱いだ。
……と同時にカバンの中でスマホが震えていることに気づく。
急いで取り出して確認すると、メッセージが届いていた。
『乃愛、明日ってあいてる?』
幼馴染で、1番の親友でもある美久からのものだった。
突然どうしたのだろうか、と頭にハテナマークを浮かべつつ急いで予定を確認する。
『どうしたの?』
『駅前にこの前話した新しいカフェがオープンしたから一緒にどうかな〜って思って!』
新しくできたカフェ。そういえば、少し前に美久が目をキラキラさせながら話していたっけ。
『病院寄ってからでも大丈夫?』
『もちろん!じゃあ15時に駅前集合ね!』
『うん、楽しみにしてる』
最後にそう返して、私はスマホを再びカバンの中へとしまう。
(……明日、楽しみだな)
こういう小さな楽しみが1つ増えただけでも毎日がキラキラと輝くような気がした。
特別なことが起きなくたっていい。
何気ない日常が私にとっての幸せで、これからもずっと続いてほしいと時々願う。
「よーし、それなら早くやること終わらせないとね。ファイト、オー!」
カフェを最大限に楽しむためにタスクは残さないようにしなきゃ。
誰もいない家の中、私は少し大きめの声を出して自分に喝を入れた。
表にかかっている「雨夜」の表札にちらりと目をやると、ホコリをかぶって少し汚れているように見える。
あとで払っておこう。
「ただいま……お母さん」
玄関のドアを開けて中に入り、そばに置かれている一枚の写真をそっと手に取った。
まだ小学生だった頃の私と、お父さんとお母さんと。満面の笑みを浮かべた私たちの姿がおさめられている。
見ていると今にもキャッキャと笑い声が聞こえてきそうなほど私は幸せそうに、楽しそうに笑っていた。
……今はもう、そんな光景は見れない。
写真をしばらく見つめた後、私はいつもしているように静かに口を開いた。
「今日ね、お父さんが酔っ払いまくって生肉いっぱい食べちゃったせいで食中毒なって、それで入院することになったの。ほんとにバカだよね」
これは私が毎日欠かさずやっていること。
亡くなったお母さんにその日の出来事を話すようにしている。
ぽつりぽつりと話していると思わず涙がこみ上げてきそうになった。
それを私は必死に抑え、にこりと笑みを浮かべる。
こんなことで天国のお母さんを心配させるなんてできるわけがない。
「あ、でもねお医者さんによると数日で退院できるんだって。だから安心してね、お母さん。私たちは今日も元気だよ」
お父さんも、私も今日まで2人で仲良く元気に過ごしている。
お母さんもきっと喜んでくれているはずだ。
少しして私は写真を元の位置に丁寧に戻し、靴を脱いだ。
……と同時にカバンの中でスマホが震えていることに気づく。
急いで取り出して確認すると、メッセージが届いていた。
『乃愛、明日ってあいてる?』
幼馴染で、1番の親友でもある美久からのものだった。
突然どうしたのだろうか、と頭にハテナマークを浮かべつつ急いで予定を確認する。
『どうしたの?』
『駅前にこの前話した新しいカフェがオープンしたから一緒にどうかな〜って思って!』
新しくできたカフェ。そういえば、少し前に美久が目をキラキラさせながら話していたっけ。
『病院寄ってからでも大丈夫?』
『もちろん!じゃあ15時に駅前集合ね!』
『うん、楽しみにしてる』
最後にそう返して、私はスマホを再びカバンの中へとしまう。
(……明日、楽しみだな)
こういう小さな楽しみが1つ増えただけでも毎日がキラキラと輝くような気がした。
特別なことが起きなくたっていい。
何気ない日常が私にとっての幸せで、これからもずっと続いてほしいと時々願う。
「よーし、それなら早くやること終わらせないとね。ファイト、オー!」
カフェを最大限に楽しむためにタスクは残さないようにしなきゃ。
誰もいない家の中、私は少し大きめの声を出して自分に喝を入れた。