拓生くんが歩き出し。
私は再びベンチに座り。
続いて一輝くんも座った。
私と一輝くんの間。
ない、ほとんど隙間が。
伝わる。
一輝くんの体温。
一輝くんのぬくもり。
それは一輝くんそのもののよう。
温かくてやさしい。
そう感じながら公園の景色を眺めている。
「結菜ちゃん」
そのとき。
一輝くんが声をかけた。
「どうして僕がいた木から離れたベンチに座ったの?」
えっ。
「ベンチなら僕がいた木の近くにもあったのに」
一輝くん。
少しふてくされている。
「どうして、って……」
一輝くんが近くにいたら。
話しづらくなってしまう、拓生くんと。
なんてこと。
言えるわけがない。
「なんとなく、かな」
だから。
そう言うしかなく。
「なんとなく?」
引っかかったのだろうか。
『なんとなく』という言葉が。
訊き返されてしまった。
「うん、なんとなく」
それでも。
そう言い張った。
「ふ~ん」
一輝くん?
なんか。
意味ありげ?
これは。
ある、何か。
「わかった。
このことは、もう訊かない」
思っていた、何かあると。
だけど。
一輝くんの言葉を聞き。
安心した。
もう訊かれない、と。
それに。
一輝くんの表情。
緩やかになっている。
そんな一輝くんを見て。
ほっとした。
「でも」
それなのに。
「その代わり」
言ったから、そんな言葉を。
思ってしまう、再び。
何かあるのでは、と。
「夜、覚悟してね」
やっぱり‼
だけどっ。
まさか、そんなこととはっ‼
「一輝くん⁉」
「なぁに」
「覚悟って⁉」
「そんなの、今言うわけないでしょ。
夜までのお楽しみ」
意地悪な笑みを浮かべている、一輝くん。
そんな一輝くんに。
「教えて」と、お願いしても。
「ヤダ、今は言わない」
そう言われてしまい。
それでも。
した、お願いを。
もう一度。
だけど。
「ヤダ、絶対に言わない」
と、頑固な一輝くん。
そして。
「帰るよ、結菜ちゃん」と言い。
ベンチから立ち上がる、一輝くん。
そんな一輝くんに。
「逃げたっ」と言いながら。
立ち上がる、ベンチから。
「別に逃げてなんかないよ」
そう言って。
さらに意地悪な笑みを浮かべる、一輝くん。
「逃げてないなら、
夜に何があるのか教えてよ」
歩き始めている一輝くんに。
訊いた、しつこく。
「それは夜までのお楽しみって言ったでしょ」
やっぱり教えてくれない、一輝くん。
「もぉ~っ、一輝くんの意地悪~っ」
そんな一輝くんに。
膨らませる、頬を。
「あははっ‼」
そんな私を見て。
大笑いの一輝くん。
「もぉ~、何がおかしいのぉ~」
そうして。
より膨らませる、頬を。
「ほんと可愛いな~、結菜ちゃんは」
頬を膨らませれば膨らませるほど。
一輝くんは私のことを『可愛い』と言って頭を撫でてくる。
「別に可愛くないもん」
最終的には。
膨らませる、プーッと。
風船のように頬を。
「はいはい、よしよし」
撫で続ける、やさしく。
一輝くんは。
そんな私の頭を。
なんか。
かわされてしまった、うまく。
一輝くんに。
* * *
そして。
覚悟の夜。
どうしたのだろう。
今夜の一輝くん。
いつもよりも……。
その先は。
言えない、恥ずかし過ぎて。
そして。
続いた、それは。
夜が明けるまで。
七月下旬。
梅雨明けした。
それと同時に蝉も鳴き始め。
本格的に暑くなり。
夏本番を迎えている。
学校は夏休みに入ったばかり。
夏休みということで。
私と一輝くんと彩月は実家に帰ってきている。
そして今。
一輝くんと一緒に地元のお祭りに来ている。
時刻は二十時を回ったところ。
「結菜ちゃん、
今から行きたいところがあるんだ」
そのとき。
一輝くんは私の手を握り。
連れて行く、どこかへ。
「着いた。
ここ穴場スポットらしいよ」
しばらく歩き。
着いた場所。
そこは地元の公園の中でも、ほとんど人が入ってこないところ。
周りには花や木がたくさんある。
風がやさしく吹いていて。
花や木の葉をやさしく揺らしている。
とても穏やかで美しい空間。
そう感じ思う。
「よかった、間に合った」
感動している、自然の美しさに。
そのとき。
ほっとしたようにそう言った、一輝くん。
「間に合ったって?」
どういうことだろう。
「もう少し。
それまでのお楽しみ」
一輝くんは無邪気な笑顔をしている。
もう少し?
お楽しみ?
わからない、さっぱり。
何のことなのか。
そう思う。
だけど。
待つ、楽しみに。
そういうのもいいかもしれない。
そう思った。
「もうすぐだ」
数分経った。
一輝くんの言葉を聞き。
増してきた、緊張が。
わからない、何があるのか。
だから。
気になる、余計に。
「結菜ちゃん、こっち向いて」
グルグルとしている、頭の中で。
何があるのかと。
そのとき。
突然、一輝くんがそう言った。
わからない、何が何だか。
そう思いながら。
向く、一輝くんの方を。
やさしい月明かり。
その光に包まれるように。
照らされている、やさしく。
一輝くんの美し過ぎる顔が。
合っている、目が。
そんな一輝くんと。
恥ずかしい。
そんな気持ちになり。
逸らそうとする、目を。
一輝くんから。
だけど。
できない、そうすることが。
まるで金縛りにでもあっているかのように。
見つめ合っている、無言のまま。
私と一輝くんは。
止まっている、時が。
そう思える。
このときは。
その時間は。
なんだか特別で。
異空間にいる。
そんな感じがした。
「5」
特別、時間も空間も。
そう感じている。
そんなとき。
言った、数字を。
一輝くんが。
「4」
減った、数字が。
『5』から『4』に。
これは。
なんだろう。
「3」
また減った。
「2」
もしかして。
している? カウント。
だけど。
何の?
「1……」
ついに『1』。
どうなるのっ⁉
言い終わった、『1』と。
その瞬間。
大きく。
そして美しく。
打ち上がる花火たち。
それと同時に。
重なった、一輝くんの唇が私の唇に。
「……大成功」
離れた、やさしく。
私の唇から。
いつものように。
やさしい笑顔をしている、一輝くん。
「この場所で
最初の花火が打ち上がる瞬間にキスをすると、
その恋人たちは永遠に結ばれるんだって」
純粋な子供のような笑顔の一輝くん。
「僕、
結菜ちゃんと
ずっとずっと一緒にいたい」
一輝くんはそう言うと。
たくさんの花火の花が咲いている夜空を見上げる。
そのすぐ後。
一輝くんは大きく息を吸い込み。
「僕、結菜ちゃんと結婚したいーーーっっ‼」
花火の大きな音。
混じっている、その音に。
だけど。
聞こえた、はっきりと。
『結婚したい』って。
「って、
まだ先のことなんだけどね」
照れている、一輝くん。
「一輝くん」
嬉しい、すごく。
一輝くんの気持ち。
そのために。
こんな素敵なサプライズを。
「すごく嬉しい」
私も。
「本当にありがとう」
伝えたい。
「私も」
今の気持ちを。
「ずっとずっと」
この想いを。
「一緒にいたい」
照れる、少しだけ。
伝えた、一輝くん本人の前で。
そのことは。
「一輝くん」
だけど。
「これからも」
どうしても。
「よろしくね」
伝えたかったから。
「それから」
一輝くんに。
「いつも本当にありがとう」
感謝の気持ちを込めて。
「結菜ちゃん」
「なんか照れちゃうね、
改めて言うと……」
言い終わる。
その前に。
抱きしめた、ぎゅっと。
一輝くんが私のことを。
「こちらこそ、本当にありがとう」
「一輝くん」
離れた、やさしく。
私のことを抱きしめている一輝くんは。
そして。
表現できないくらいに。
甘くて甘くてやさしいキスを……。
大きな花火という花たちが咲いている夜空の下で。
過ごしている、ゆっくりと穏やかに。
私と一輝くんは。
甘くて甘くてとろけるような。
そして幸せな。
そんな時間を。
今日だけじゃない。
これからも。
ずっとずっと―――。
♡end♡