重なった、やさしく。
一輝くんの唇が私の唇に。
聞いた、一輝くんの甘い声を。
それだけでも、とろけてしまいそうになっている。
それなのに。
一輝くんにキスをされ触れられると。
止められない。
私の方が。
そして。
一輝くんのキスは。
やさしいキスから深く甘いキスへ。
深くて激しくて。
息もできなくなりそうなくらいに。
してきそう、朦朧と。
意識が。
一輝くんにメロメロで。
一輝くんに溺れ過ぎて。
持っていかれる、私のすべてが。
一輝くんに。
一輝くん。
大好き、一輝くん。
「結菜ちゃん、大好き」
一瞬だけ唇を離して。
そう言った、一輝くん。
「私も大好き、一輝くん」
一輝くん。
私、すごく幸せ。
一輝くんの深くて激しくて甘いキスは。
唇から首筋の方に。
私の首筋にしっかりと顔を埋めている一輝くん。
くすぐったい。
それだけでも。
感じる、ものすごく。
なっている、敏感に。
私の身体は。
一輝くんに。
触れられる、一輝くんに。
そうすると。
感じてしまう、すぐに。
「結菜ちゃん、
声、可愛すぎる」
だから。
出てしまったようで、無意識のうちに。
いつもの自分とは違う声が。
「こんなにも可愛い声を出されちゃうと、
理性が完全に破壊されて
キスだけじゃ止められなくなりそう」
いいよ。
一輝くんとなら。
そんなことを思っている自分がいる。
一輝くんは私の首筋にキスをした後、耳にもキスをした。
くすぐったい、やっぱり。
思わず出そうになる、声が。
「結菜ちゃん、
我慢しないで、
さっきみたいに可愛い声出していいのに」
気付かれている、一輝くんに。
抑えている、声を。
そのことに。
「結菜ちゃんの可愛い声を
もっと聞きたい」
恥ずかしい。
一輝くんに気付かれて。
そう思っていると。
触れる、一輝くんの指。
私が着ているパジャマに。
そうして。
そのボタンを外す、一つ。
そして、もう一つ……。
「……なんてね」
え?
「一輝くん?」
どうして?
一輝くんは二つ目のボタンを外したところで手を止めた。
「……どうして……
私は……一輝くんとなら……」
「ダメだよ、結菜ちゃん」
え?
「そんなこと簡単に言っちゃ」
「違う、簡単なんかじゃない」
思っている、真剣に。
一輝くんとなら、って。
「大切にしたいんだ」
「え?」
「そういうことは……
結菜ちゃんのことを大切にしたいから
……急がない……」
「一輝くん」
「さっ、今日は寝よ。
僕は結菜ちゃんと、こうしているだけで幸せだから」
一輝くんはそう言って。
私のことをぎゅっと抱きしめた。
「一輝くん」
「なぁに、結菜ちゃん」
「ありがとう」
すごく嬉しい。
一輝くんの言葉が。
それから。
とても幸せ。
そんな言葉を言ってもらえたこと。
「僕、結菜ちゃんから『ありがとう』を言われるようなことしてないよ」
いつも優しい一輝くん。
「そんなことない。
本当に本当にありがとうだよ」
「よくわからないけど、
結菜ちゃんにそう言ってもらえて嬉しいよ」
本当に本当に嬉しくて幸せで。
本当に本当にありがとうで。
それから。
本当に本当に大好きだよ、一輝くん。
そう思いながら。
一輝くんと一緒に眠りについた。
一輝くんと恋人同士になって。
二日経った月曜日の放課後。
今、彩月とカフェに来ている。
ゆったりと落ち着いたところで。
報告した、彩月に。
一輝くんと恋人同士になった。
そのことを。
それを聞いた彩月。
意外と驚いていなかった。
逆に驚いた、私が。
彩月の様子に。
思っていたらしい、彩月は。
私と一輝くんが恋人同士になるといいな、と。
なぜなら。
一輝くんは、ずっと前から私のことを好きだったから。
だから姉として弟の一輝くんの恋が叶うといいなと思っていた、と。
気付いていた、彩月は。
一輝くんの気持ちに。
気付かなかった、全く。
彩月が一輝くんの気持ちに気付いていたなんて。
恋人同士になった、一輝くんと。
その報告を終え。
彩月は訊いた、私に。
私と一輝くんが恋人同士になった。
そのことを夏川さんにも話していいか、と。
そのことに「いいよ」と返事をした。
済ませた。
彩月に報告。
次は。
拓生くんに報告しなくては。
告げてくれた、拓生くんは。
私に想いを。
そんな拓生くんに報告する。
それは拓生くんへの最低限の誠意。
報告する、拓生くんに。
そのことは。
勇気がいる、ものすごく。
だけど。
それは避けて通れないこと。
だから曖昧にしないで。
伝えなければ、きちんと。
それから。
拓生くんに報告する。
そのときは。
会う、直接。
通話やメッセージを送る。
それだけでは。
なさすぎる、誠意が。
伝える、直接会って。
そのことは。
勇気がいる、ものすごく。
だけど。
それは決して怠ってはいけないこと。
拓生くんに報告。
できるだけ早くしなければ。
* * *
夕食後。
一輝くんと一緒に夜の散歩をしている。
部屋から出て。
歩く、外を。
一輝くんと一緒に。
それは。
躊躇してしまう、少しだけ。
誰かに見られてしまうかもしれないから。
だけど。
思った、キリがないと。
そんなことをいつまでも思っていても。
だから、することにした。
一輝くんと夜の散歩を。
六月中旬。
梅雨の時期。
そういうこともあり。
ジメジメしている日が多い。
だけど今日は梅雨も一休み。
梅雨ではないくらい。
スッキリとした夜空。
そんな夜空の下。
歩いている、ゆっくりと。
一輝くんと二人で。
穏やかに吹く風。
そんな風に包まれるように。
緑の葉たちもやさしく揺れている。
そのとき。
葉っぱ同士がやさしく触れ合い。
心地良い歌声を生み出している。
癒される。
葉っぱたちの歌声。
「結菜ちゃん、
外、気持ちいいね」
自然たちが生み出す空間。
そんな空間に癒されている。
それから風も気持ちいい。
同じ気持ち、一輝くんと。
「そうだね」
だから。
私も一輝くんと同じ穏やかな表情でそう言った。
それからしばらく歩いていると。
見えてきた、公園が。
私と一輝くんは公園の中に入った。
そしてベンチに座り。
リラックスしている、一輝くん。
そんな一輝くんとは正反対。
できていない、全く。
リラックス。
なぜなら。
思い出しているから。
拓生くんのことを。
この公園は。
放課後、待ち合わせていた。
拓生くんと会うときに。
だからなのかな。
『ここで拓生くんと待ち合わせていたな』なんて。
って。
それだけじゃないよね?
思い出している理由。
伝えなければいけないから。
ということもあるからだよね。
拓生くんに私と一輝くんのことを。
だけど。
その前に。
「……一輝くん」
一輝くんに。
「なぁに、結菜ちゃん」
伝えておかなければ。
「あのね」
伝えなければいけない、拓生くんに。
「拓生くんに」
私と一輝くんは。
「伝えなければ……いけなくて」
恋人同士になった。
そのことを。
「私と一輝くんのことを……」
「やっぱり、そうだよね」
えっ?
驚いた。
一輝くんの言葉に。
拓生くんと関わる。
そのようなことを言ったら。
一輝くんは驚く……というか血相を変えて大反対する。
そう思ったから。
それが。
『やっぱり、そうだよね』なんて。
なんか、あっさりとしているというか。
「一輝くん?」
「うん?」
「『やっぱり、そうだよね』って……」
「そうすると思っていたから、
そう言っただけだよ」
なんで一輝くんは、そう思ったのだろう。
もしかしてっ‼
「どうして、そうすると思ったの?」
する、予感が。
なんとなく嫌な。
だから訊き方が恐る恐るな感じになってしまった。
「『どうして』って、
だって結菜ちゃん、市条先輩から告白されてるんでしょ」
やっぱり‼
そういうことだった‼
嫌な予感がしたのは‼
「一輝くんっ、気付いていたのっ⁉」
「気付いていたわけではないけど、
なんとなくそう思っただけ」
そう言った一輝くんの表情。
涼しげで落ち着いた感じに見える。
「それで市条先輩には、
いつ報告する予定なの?」
「拓生くんには、これから連絡するから、
いつ会うかは決めていない」
って。
言ってしまった。
『拓生くんに会う』と。
一輝くん、どんな反応するのだろう。
拓生くんに報告する。
それは。
通話かメッセージを送る。
というのでもいいのではないか。
そう言うのだろうか。
「そうなんだ」
驚いた。
一輝くんの返答に。
だけど。
思った、すぐに。
驚くことではない、と。
直接想いを打ち明けてくれた人。
その人に通話やメッセージを送るだけで済ませる。
それは失礼なこと。
わかっている、ちゃんと。
一輝くんも。
そのことを。
「じゃあ、
教えてね、決まったら」
わかっている、一輝くんも。
そのことに少しだけほっとしている。
そのとき。
言った、一輝くんが。
『教えてね』と。
一体何をだろう。
「市条先輩に報告するために会う日」
あぁ。
そのこと、ね。
「うん」
伝える、一輝くんに。
それは特に不思議なことではないのかもしれない。
ただ。
予感がする、何か。
それは気のせいだろうか。
「絶対だからね」
念を押す、一輝くん。
これは。
やっぱり何かある?
いられない、そう思わずには。
「市条先輩に報告するのって放課後でしょ」
「うん」
「市条先輩に報告する当日、
授業が終わったら僕に連絡して」
当日の放課後。
一輝くんに連絡?
拓生くんに報告したら、すぐ帰るのに。
「それはいいけど?」
やっぱり。
思う、不思議に。
一輝くんの言葉。
「そのとき教えて。
市条先輩とどこで会うか」
ん?
拓生くんと会うのは私一人。
それなのに。
なぜ場所を知りたいのだろう。
「教えることは構わないけど、
一輝くんにとっては特に必要な情報じゃないんじゃない?」
「そんなことないよ。
ものすごく重要な情報だよ」
「……?」