「咲香……ずっと、好きで、告白しなかった事を後悔してる。だから、これが最後のチャンスだから勇気を出す」
『宗』
「もし。俺に友達を求めてたなら本当にごめんな。俺、本当に咲香が好きだから……!!」
これは、夢? 冗談? いや、宗はそんな悪質な冗談はいわない。あり得ない。ああああああああああああああああ!!
「もう二度と会えないのなら、どうかその間だけでも恋人でいて欲しい、ダメか。さすがに……」
『わ、私は』
返事をしたいのに言葉が喉につっかえてでない。
頑張れ、私。頑張るんだ私。
口をパクパクしながら私は胸を抑える。
『私も、ずっと前から宗が好き……!!』
「! 咲香、本当か!?」
真っ赤な顔の宗が顔をあげる。宗は泣いていた。
そして私は気が付けば止まらない大粒の涙を流していた。もう体に力も入らないレベルで、床にへたり込む私。
『嘘じゃないよ。ずっとずっと片想いだと思ってた、諦めてた。死んじゃったし、付き合えるなんて想像してなかった。こちらこそ、恋人になってやって欲しいな……!』
「咲香!」
『こちらこそ、貴方のことが大好きです。彼女にしてください。宗』
「……夢みたいだ」
小さな声で、宗は呟く。
それはこっちのセリフだよ。
『私出会ってすぐから宗が好きだったんだよ』
「俺だって、そうだ」
『宗はモテたから、自信なくてね。私と違って美形でカッコいいから』
「俺は、咲香の見た目も好きだぞ、咲香も童顔の美形だろ?」
少し拗ねるように怒った声で宗は言った。ええ?
『宗の方が段違いでカッコいいよ。何言ってんの』
雑誌に載るレベルの顔面偏差値にスタイルじゃん。美少年じゃん。
私なんか生きてる間に何度小学生と間違われたか。
「咲香は可愛いのにたまに勇敢すぎて困るけど、正義感強くて明るいところも大好きだ! もちろん、優しいところも」
『照れるよ、宗』
ストレートすぎるし、そこまで凄い人間じゃないよ? 私。
無鉄砲で、考えなしでワガママなだけ。お子様なんだよ。中身も。
せめて髪型下ろして死にたかったなあ。髪の毛ふたつに括らないと髪の量が多いんだよね。私。
神様にもたまにからかわれたからね。あは。生前はいろんなヘアブラシとか試したっけな。どれも効果がなかったけど。
サラサラロングになって、背も伸ばして上品な女の子になって、宗にお似合いの女の子になりたかった。
だけど、今の自分でも宗は好きだと言ってくれた。ここは天国か。いや、天国なら最近までいたけど。
『好き。大好き』
「俺も、咲香が大好きだ」
私は触れるだけの甘いキスをした。宗も、私に合わせる。
生きてるうちに勇気を出せれれば、唇のこの温かみも感じられたのに。時が止まったような気がした。
「勇気を出すのが遅くてごめんな。咲香」
『私も、怖かったの。好きだから、怖かったの』
「残りの時間、存分楽しもうな」
『うん!』
私は泣きながら微笑む。
お? なんか人影が見える……スマホか何かの光が私と宗を照らしてる。ガサガサと草と靴の掠れる音もする。あ……。
「いた! 宗と村崎。なんで泣いてるんだよ!?」
「あ、友也と唯。ちょっと怖い話しててな。ふたりでギャーギャー泣いてた」
宗がサラリと嘘をつく。
「何してんだよ」
「ごめんな? 俺らの勝手でずっとふたりにして」
「いや俺別にいいけど。じゃない! いや! 寂しかったけど!」
友也、本音出てますけど。
私達はお互いを見つめ合い、モジモジする。あー。何だか気恥ずかしい。私達、もうすでに付き合ってるんだ。恋人で、カップルで、彼氏と彼女なんだ。
「ふたりとも花火ちゃんと見れたー?」
唯が少しテンション高めに聞いてきた。スマホを突き出して動画も見せてくれている。おお。めっちゃ写りいいな。
「見れた。唯達はどうだった?」
「うん。すごく綺麗だったよ。宗達もくればよかったのにー勿体無い」
相変わらず私達の気持ちをさっしない鈍感ガール唯。
そして、友也は何かに気づく。
「何かあったのか? お前ら」
私たちを目配せし合い、頷く。
「実は……俺たち付き合うことになったんだ」
「おめでとう。宗。あたしは今更だち思うけど」
「オレも。遅くね?」
へ? へ??
「え、驚かないのかお前ら」
なんで「だろうな」って雰囲気なの?
私達、そんなにわかりやすかった? 嘘ぉ。
「お似合いのふたりだな、とは勝手にあたしはずっと思ってたけど?」
「同じくオレも」
「本当、よかったって感じ。咲香の成仏までに両思いになってくれて」
そうそう、と唯と友也が頷き合う。仲良しか。
正直ふたりが言うなよ、と内心思いつつ。
強い風が吹く。皆の髪が揺れて、浴衣の帯も揺れる。
もう、夏はそろそろ終わりに近づいている。
そう。……私と宗の最後の夏も、終わりに近づいている。
怖い。正直めちゃくちゃ怖い。時間なんかすぎなきゃいいのに。
ジッと宗を見つめると、にっこり微笑み返してくれた。違う。そうじゃない。嬉しいけど違うんだ。
「あ、流れ星!」
唯が叫んだ。
「お願い事、しないと」
騒ぐ唯に無言に空を見上げる他の三人。もう流れ切っちゃったよ、唯。
それにしても綺麗な星空だね。ロマンティックな感じ。
神様。私はどうしたらいいですか?
いつにもなく敬語で心の中で神様に問いかける。本当に生き返っていのですか?
「あーあ。間に合わなかったね。まあ、願いは自分で叶えなきゃね」
唯はテンション高く言った。
「そうだな。宮嶋」
「咲香。これからは宗との時間を優先してくれていいからね」
なぜか私達以上にご機嫌な唯。このまま踊り出しそうなレベルだ。
『ありがとう』
「助かる。唯。咲香もお礼を言ってる」
「親友だもん。当然でしょ。あたしにはむしろそれぐらいしか出来ないし」
えへへと可愛らしく唯は言う。
「あたしも、恋愛したいなぁ。ってちょっと、柴沢何吹き出してるの!? きたなーい!!」
「ごふっ、ごほっ……」
友也が飲んでいたジュースを吹き出した。可哀想に。
あーあ。ダメだこりゃ……。友也、頑張れ。超頑張れ。唯、あんたはもう少し情緒とかに敏感になりなさい。本当に。
宗はそんなふたりを呆れた目で見ている。きっと私も同じ目をしている。
好きって気持ちって、本当単純で難しい。感情をすぐに掻き乱す。だけど死んだら、それだって何も出来ないんだ。
そんな私が手に入れた最後のチャンス、満喫しなきゃ。
色々決めなきゃいけない事はまだまだあるけど……。
「とりあえず! 改めて宗と咲香! 両思いおめでとう!」
『ありがとう、唯』
「おう。ありがとう。咲香も喜んでるぜ」
「とりあえず写真見せるねー。いろんな角度から撮れたんだよー」
唯がスマホを宗に渡す。
「あ、皆でも写真撮ろうよ」
そう言ってスマホを構える。そして、皆でカシャリと写真を撮った。
そこに私は写っていないけど。なんだか悲しい気持ちだけどそこに私はいたのだ。
「明日は咲香とデートさせてほしい」
「いいよ、宗。あたし達を気にしないで」
「ありがとう。助かる。友也も唯と遊んでろ。暇だろ」
「!? なっ、ひ、暇じゃないよな!? 宮嶋は」
「暇だけど、別にいいよ。あたし渋沢といるの楽しいし」
「!?」
あーあ。また友也が死にかけてる。
唯って天然タラシだよね。本当に。
「じゃあ、またデート後にでも」
「おう。楽しんでこいよ。宗」
『…………』
花火大会を仲良し四人組でワイワイ楽しんだ夏のある日。
こうして、私と宗は付き合うことになった。
ずっと夢見てた。宗の恋人になって手を繋いでそばにいる事。
でも今の私は透けていて吐息を感じる事すらできない。
だけど、恋人。念願の、恋人だ。
今日は、一緒にひまわりばたけに行こうとバスに乗っている。夏休みだからか、それなりにバスは混雑していた。
「ねぇねぇ、ダーリン。どこいくぅー? わたしアイス食べたい!」
「ハニーがいればどこへでも」
目の前でバカップル……じゃない、熱い恋人たちが絡まるように戯れて言った。
なんだか真似できない自分が歯痒い気持ちにんりながら、私はため息をつく。
今日は酷く暑い日だった。宗は珍しくカジュアルな服につばの広いシンプルな帽子をプラスしている。
スポーツドリンクも、カバンに入れていた。
「ねぇ、あの人カッコよくない?」
「遠出するのかな。荷物多いね」
「声かけてみる?」
派手目の可愛い女の子ふたりが宗を見て騒いでる。
凹凸のある体に、露出の多めの服に染め上げた髪の毛。垢抜けてオシャレだな。令和ギャルって感じ?
それに対して私は……。あああああ。ダメ。
やめて。やめて。宗に近づかないで!!
ダメー!!
「ねーねーっ? お兄さん、私達と遊びませんか?」
「一緒にカラオケでも行こうー? 奢るからぁー」
ヤダヤダ。やめてぇ。宗は私のなんだからっ。取らないで!!
そう思っていると。
「あ、俺。今から彼女とデートなんで」
「えー。残念―。彼女と別れて乗り換えませんか?」
「最高の彼女なんでそれはないです」
そうは爽やかな笑顔で女の子達を拒絶した。
私は死ぬほど恥ずかしくて、宗の方を見ていられなかった。