「宗の家族だって遠くに今いて、たまに帰ってくるぐらいだ。アイツの家族は薄情だ。死に際を見たくないからってアイツを放任してる。それでも。アイツにとっては大事な家族なんだよ」
『それに好きな人に嫌われるのは、……怖いよ』
「? 誰だよ」
『え?』
「咲香の好きな人って誰だよ」

 いや、ちょっと待て。まさか気づいてなかったの!?

「……もしかして、宗なのか」
『気づいてなかったの!?』
「だから、あの時お前は咄嗟に……なるほど」

 ふむふむと手を口元に当てないでくれるかなあ!? 友也!!
 なんだか私の方が急に恥ずかしくなって来たじゃん!!
 もうっ。

 コホン、とわざとらしく咳き込む友也は続ける。

「それでも、嫌だからこそ宗に自分の死について向き合わせてやりたいと思わないのか?」
『何も知らないからこそできる日常もあるんだよ。一度知ったら元には戻れないんだよ? 知らなかった日常は帰ってこない』

 後一日。後数時間。ずっとそう数えながら生きる事になる。
 そんな死に方って、正直切なすぎない?

 黙っていれば成仏しにくい魂に対して、私が散々今までして来た事ではあるけどさ。

「逆も言えてるだろう?」
『そう、だけどさ! アンタは宗の親友としてこんな残酷な運命を突きつけようってなんで思うの!?』

 私は癇癪を起こした子供のように駄々をこねる。
 邪魔しないでよ。本当。

「親友だから。オレはアイツを信じてるから」

 笑みひとつ混ざらない表情で友也は言い切った。