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「唯。うわーん。痛いよぉ。助けてぇー! えーん!!」
「大丈夫だよ! 泣かないで! 咲香ちゃん。あたしがいるから!」
「走れー!! いけー!! 転んだまま泣いてるなよー!!」
「負けるだろー!? オイ、咲香!! 甘えんな!!」

 足が痛い。それ以上に割れるような声に耳が痛い。
 怖い。動けない。しんどい。逃げたい。でも、こんな注目の中逃げる度胸もない。
 私が走るまでは、ひまわり組は一位だったのに、今じゃ最下位決定待ったなしだ。最悪。最悪。最悪。

「コラ! 早く走れよ!!」
「サボるな!! 咲香!」

 無理。
 嫌だ。助けてよ。誰か。応援席のお母さん達を見ると「頑張れ」と口が動いている。
 そうじゃない。そうじゃなくて。

 一瞬、青すぎる空を見上げ目そらす。ギラギラ光るお日様、今すぐ雨を降らせてくれないかなあ。
 ねえ。お願い。
 どうか神様、私を助けて。お願いだから。

「痛いよー。うわあああん!!」

 私は幼稚園の秋の運動会で、はしゃぎ過ぎて派手に転んで。
 皆にガンガン責められて動けなくなった私の前に、はあはあと息を切らした唯がいた。