「ねぇ、何話してるの!? 柴沢はとにかく、宗まで何で咲香ちゃんが見えるの?」
『唯』
「ふたりであたしをからかってるんじゃないんだよね? そこに本当に咲香ちゃんがいるの?」
『いるよ! 唯! 私はここにいる!!』
「嫌。こんな虐められて、男の子に逃げてる私をみられてたなんて、最悪」
『見てないよ! 唯!』

 私の声は、唯には届かない。
 泣きそうになるのは、私だけじゃなく唯もだ。

 苦しい。なんで、目の前にいるのに声が届かないの。

「だって女の子は私をやっかむもん。こんなに可愛いロリィタファッションもバカにするもん!! 宗や友也には心配かけたくなかったんだもん!! だから、男の子と仲良くするしかなくて。でも、アタックされてややこしくなって、もう、疲れたよ!!」
「俺らがいるだろ」
「宗達は忙しそうじゃん。ふたりには他にも友達がいるし。そりゃ異性でも、ふたりならあたしに無意味にアタックしないのはわかるよ。本気で好きで以外はありえないんだろうなってのもわかる。だから別に男の子でもふたりは怖くないけど」
「だからってどうでもいい男達にアタックされて病んでちゃ意味ないだろ!? 唯!!」
「そうだけど! 女の子って怖いんだよ。表向きはニコニコして裏でネチネチいうんだもん」
「全員じゃないだろ。咲香は違っただろ」
「咲香ちゃんはもういないじゃん!! 死んだんじゃん!!」

 叫んで唯はため息をつく。そしてゴスロリのたっぷり膨らんだスカートの左右を叩く。

『唯……』

 私は何も言えない。言っても聞こえないけども。
 ふと、視線を動かすと友也が少し気まずそうな顔をしている。私と目が合うと、スッと目を逸らした。ああ。なるほど。

 唯は脱いでいたパンプスを履いてこっちにゆっくりゆっくりと歩み寄ってくる。
 涙も止まっている様子だ。よかった。小さくまだ、鼻を啜る音も聞こえるけど。
 まっすぐ唯を見る。
 なんだか少し嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか。
 うん。やっぱり唯は気が強くて元気なのが似合うよ。
 赤黒いリップは少し取れ気味で、アイメイクだってグチャグチャだけど。それでも唯は美少女だ。

 正直友也だって、それなりには美形だけど。私だけがグループで垢抜けなかった。何より寸胴のチビだしね。声も子供みたいに高いし、バカっぽいってよく言われるし。
 って、そんなの今は関係ない。唯だ。