「ありがとうございました」
「こちらこそ。宗くん。受験はどう?」

 お母さんは宗に氷のたっぷり入った麦茶を渡す。宗もそれを一気に飲み干す。

「……まあ、なんとかって感じです。咲香のお母さんは、少し痩せましたか?」

 正座から立ち上がる宗。

「あらぁ、バレちゃったかしら。なんかねぇ。夏になると咲香を思い出すのよ。あの子は夏が好きだったから。舞香もいるし、咲香が心配するから元気でいなきゃ言えないのに、情けないわねぇ。私ったら」
『お母さん……!』

 一粒の涙が、お母さんの頬に溢れた。

「ごめんね。宗くん……こんな辛気臭い話ししちゃって」
「そんな」

 泣かないで。お母さん。
 ごめんね。お母さん。本当に親不孝でごめんね。

 先に死んじゃうようなバカな娘でごめんね。
ごめんね。ごめんね。ごめんね。どんなに謝ったって伝わらない。命に変わる謝罪なんかないから。

 私とお母さんの時間はもう増えることもない。
 それは私が死んでしまったから。
 お父さんや妹の舞香だってきっと私がいなくなって色々あっただろう。

「ただいま。お母さん。宗さん、来てたの?」
「おかえり舞香。麦茶冷えてるわよ」

 慌てて笑顔を作るお母さん。

「どうも。舞香ちゃん」
『舞香!』

 家に帰って来た舞香の声に私は振り向く。