「なあ。咲香。俺、健康体だったらっていまだに考えてしまうんだ。意味がないってわかってるのに。たらればの妄想をして、泣いたりするんだ。バカだろ。もう十八年生きてきて、まだ自分の立場に納得できないんだ」

『…………』
「他の誰かになれるわけない。わかってるのに。なんで俺だけ病弱なんだよとか、他の不幸な人を見て安堵したりとか、逆に幸せな人に嫉妬したりとか。子供だよな、俺……」
『私もだよ。それ、生きれていればっていつも思う。本当は今を一生懸命生きるしかないって、とっくにわかってるのに。不幸に酔っても無意味なのはわかってるのに、すぐ心の迷子になっちゃって』

 宗でもやっぱりそういう悩みがあるんだ。
 私は正直驚いていた。

 いつも明るくて優しくて、思いやりのある宗ばかり見てきたから。

 私は、宗をうわべばかり見てきたのかもしれなかった。

 そう思うと胸が痛くなる。

「どうしたら、切り替えれるんだろうな」
『しなくていいんじゃないのかな。私も進級も卒業もできないけど、まだ本当はできるならしたいし。そういう考えも持った上で、前を向いて、そのうち忘れれるぐらい傷を癒せればいいなって私は思うよ』
「咲香」

 宗は目を見開いて私を見る。

『だって、それぐらい今の人生をしっかり生きてるから、そうやって悩んで悔しくなってるんじゃないのかな? どうでもなかったらこうだったらとかとかすら思わないよ』


 私の言葉に宗は柔らかく笑う。私も笑う。なんだか宗ははにかんで照れて見える。顔、赤く見えるし。気のせいかな?

「……そうだな。それも一理ある。お前ってよく考えてるんだな」

 褒められた。私も照れる。


『え。死んでからだよ、こいう思考。死ぬまではただのバカで明るい性格だったし』
「そうか? 昔から人助けとかしてただろ。しょっちゅう迷子助けてたし」

 いや、それは普通では?
 迷子は助けるものでしょ? 違う?
 自分が迷子だったら、助けてもらいたもん。されて嬉しい事は進んでするべきでしょ。ねえ?

「さすがにナンパされてる女子を助けに啖呵切りに行ったのはビビったけどな」
『そんな事あったけ』
「お前にはそれ、日常だもんな。普通だもんな。すげぇよ。咲香」
『よくわかんないけど、ありがとう?』

 それっていつ頃なんだろう。全く覚えてないや。

『宗だって先生の手伝いしまくってたじゃん』

 なんていうか、みんなが手をあげないものは大体宗が立候補してたよね。懐かしい。

「よく見られたいからだ。それは。咲香とは違う」
『そうなの? でも先生達助かってたよ。皆も。私も。委員長とか誰もやりたがらないしね』
「それに、俺の病気の配慮とかも、学校側はしてくれてたから」
『へえ。優しいね。学校』
「だから、出来る事ぐらいしないとな。それより咲香」
『何?』
「夕飯食べて風呂入ってくる。ここにいろ。父さん帰ってくるかもだし、気まずいから。ごめんな?」

 まあ。確かに私が話しかけたりしたらヤバいよね。
 宗のお父さんに宗が変になったかと思われちゃう。ヤバいヤバい。
 除霊されたりして。そしたら私消えちゃうよー!!
 塩撒かれるだけでもヤバいのに、あわわ。

『はーい。お風呂ちょっと覗いちゃおうかな』

 絶対恥ずかしくてできないけど!

 そもそも冗談だしね。無理。恥ずかしいよ。

「やめろ」

 凄むように言う宗。怖!!
 そしてタオルと着替えを持って、部屋から飛び出して行く。