それでも。皆私が死んで悲しんでくれて。不謹慎だけど正直嬉しいけど、申し訳なさでいっぱいだ。本当にごめんなさい。謝っても聞こえないだろうし、言わないけど。

『つら……』

 引き攣った声が喉から出た。

「咲香? 何か言ったか?」

 宗は大量の本を手に抱えて私を見る。ほとんどが私の趣味に合わせた雑誌達。

『ううん』

 私は反射的に笑顔を作りブンブンと首を横にふる。

『なんでもないよ。本当になんでもない』
「顔色悪いぞ? 大丈夫か?」

 心配そうに宗は浮かぶ私を見上げる。私は頷く。ダメ。元気なふりしないと。宗に心配かけちゃうじゃん。バカ咲香。
 鮮やかなオレンジ色になってきた広い空を見上げて、私は色々考える。

『平気だよ。ただ遊び疲れただけだよ。だから、宗。気にしないで』
「そうか? まあ俺もはしゃいで疲れたな。楽しかったし」

 本当は、宗も泣いてたけどね。そこは気づかなかった事にする。

『うん、楽しかったね。でも今私はとにかく早く新しい雑誌が読みたいなー帰ってテレビも見たいしー』
「だな。急ぐぞ、今日は歌番組をやる日のはずだしな」

 少し疲れ気味の宗の声。正直心配だ。弟君のこと、苦手なのかな。ちょっとそんな感じがした。

『うわああいー! 楽しみー!』

 棒読みになってないかな。私の喜んだ声。不自然じゃないかな。私の作った笑顔。大丈夫かな。
 本当は全然平気じゃないけど。はあ。頭が割れるように痛い。
 皆の顔が頭をよぎる。お父さん、お母さん、舞香、唯、友也……そして宗。

 人間関係はミルフィールのように時間をかけて、薄く沢山重なってできている。私も、宗達の人生の中に、心の中に、きっといるんだ。ごめんね、唯、友也。私との二度目のお別れを体験させるね。

 ごめんね。ごめんね。
 でも、私は戻ってくるから、戻ってくるはずだから……でもその世界に、「宗」はいない。