「なぁーんて。本屋でボソボソ語るべきじゃないよな。帰ろうぜ。そもそも、諦めてからこそがスタートだと思ってるから、咲香は何も気にしないでいいよ。俺は今、超絶前向きに人生を楽しんでる最中だから」
『そ、う……』
「さ、帰るぞ。雑誌は良さげなの俺が選んで適当に買ってくから待ってろ」
『うん』

 返事が喉から出ない。声も掠れる感じになる。力がこもってない。

「他にも何か欲しいものあればいくらでも言えよ。俺は咲香の彼氏なんだから絶対に遠慮するなよ」

 小さな声だけど力強く、宗は言った。
 優しい。

『……うん。ありがとう宗』

 確かに私の知ってる宗はいつだって明るかった。弱音も滅多に吐かないし、人にも優しくて明るかった。
 具合が悪い人がいれば吐瀉物が掛かろうが真っ先に助けるし荷物も保健室に自主的に運んだりしてたね。顔色を悪いクラスメイトにまず最初に気づくのも宗だったな。よく具合が悪い人をキモい汚いと揶揄う人には本気でぶちぎれてたね。

 それは、自分が病気を持って生まれたからっていう理由があったんだね。人より早く苦労したから、他人に優しくあれたんだね。不安定な思春期の今、誰だって自分の事で一杯一杯で心が苦しくてツラいはずのに、すごいね。宗。

 死ぬ前の私なんか、どうすれば大好きな宗が喜ぶかとか、家族と食べるご飯の事だとか、自分と一部の近くの人のことしか考えてなかった。勉強だってその場しのぎで、就職だってなる様になるとしか思ってなかったし。

 生きる意味や価値なんかまるで理解していなかった。むしろ無駄な時間を潰すことに努力していた。無駄な時間なんか今思えばないのにね。バカだ。

 宗や幸二郎君みたいに、今できることを全力でやればよかった。本当に心からそう思うよ。反省しても、どうにもならないけど。
 唯だって、友也だって私と違って特技も一芸もあって。私だけが明るいだけが取り柄のバカだった。
 それでも皆は仲良くしてくれたけど……私といえば、ってものがないまま死んでしまった。はあ。