「兄貴じゃん」

 声変わり前の男の子っぽい声に、宗とふたり振り返る。
 可愛い。
 そこには、宗を小さくした感じの美少年が大きなカバンを持って立っていた。周りの男の子も、そんな感じの荷物を手に持っている。

「幸二郎……」

 あ、なるほど。幸二郎君って……!

「何ひとりでブツブツ言ってんだよ。兄貴。本屋に何か用事かよ」
「別に。ちょっと買い物、お前は? 幸二郎」
「塾帰りだよ。最近ばあちゃん家から毎日通ってるの知ってんだろ。夏休みなんだから。そもそも兄貴こそなんで出歩いてるんだよ。寝てろよ。倒れるぞ」

 不機嫌を隠さずに幸二郎君は言った。あ、カバンにH塾って書いてある。そこって超進学塾じゃん。うちらの高校どころの騒ぎじゃない、いわゆるT大クラスに進学する人達が多く通う塾だ。

 幸二郎君って、まだ中学受験前だよね? 小学生のはずでは……もうこんなにも勉強ばかりしてるの? それにしては日焼けしてるけど。なんか勉強よりも運動が好きそうな少年って感じ……。

「親父の会社はおれが継ぐから安心して病気治してろっていつも言ってるだろ? 病弱兄貴。本なら通販でいくらでも帰るだろ」

 まるで宗の保護者の様な口ぶりで幸二郎君は呆れた顔で言った。

「ああ。ごめんな。心配かけて。急ぎの買い物したら帰るから、安心しろ」

 眉根を下げて宗は情けなさそうに答える。