すずは、純の仏壇の前で放心状態だった。大人になった純に会いに来たはずなのに、純はこの小さな仏壇の中にいるのだと言う。すずは何も理解できなかった。こんな現実を信じることなんてできない。

「直ちゃん、すずちゃん、驚かせちゃってごめんね…
 純は十四歳の誕生日を迎える一週間前に亡くなったの」

「十四歳…?」

 すずがこの部屋に入ってから初めて声を出した。

「そう…
 純は、小児がんの一つで、足の骨にがんができる病気だった…」

 直人はピンときた。あの時、純を苦しめた足の痛みはそのがんのせいだった。

「和美おばちゃん、もしかして、あの小学校最後の運動会の時も…」

 和美は小さく頷いた。

「あの当時は無理のし過ぎだと思っていたの。
 ちょうどその頃、本当に膝の靭帯も痛めていたし…
 あの時に気づいてあげていればもう少しなんとかなったのかもしれないけど、でも、誰も気づかなかった。気づいてあげれなかった…」

 和美は今でも悔やんでいる。愛する我が子が不憫で可哀想で、今でも自分を責めてしまう毎日だった。