和美はハッとした顔で佑都を見た。佑都はすぐに目をそらし、母の動向をうかがっている。
「ううん、純は奥の部屋で二人を待ってるわ」
和美は立ち上がると、直人とすずについて来るように目配せをした。
直人は純の家の広さに驚いていた。団地住まいしか知らない人間にとっては憧れの広い家だ。そして、廊下の先にある部屋のふすまを開けて、和美が先に部屋に入った。
一瞬、直人は体が動かなくなった。あの部屋に入りたくない。直人の頭の中は走馬灯のように純との思い出の日々が駆け回っている。
…あの部屋で純が俺を待っている?
でも、胸さわぎが治まらない。直人の魂はもうすでに悲鳴をあげている。
先にその部屋に入ったすずは、何も言わずに静かに座った。
「直ちゃん、純に会ってあげて…」
直人はもう分かっていた。純と結びついている力強い絆が直人に教えてくれた。
…純はもうここにはいない。