直人とすずは、佑都に促されて奥の居間に通された。そこはダイニングとリビングが一つになった広い部屋で、大きなソファと六人掛けのテーブルが置いてある。そして、庭が見える大きなサッシの外には手入れが行き届いた縁側もあった。
「そこに座ってね」
和美は、直人とすずのためにクッキーを焼いていた。
昔、船橋にいた頃は、団地にある和美の家のキッチンでよくお菓子作りを皆に教えたものだった。小さかった純や直人は、そんな和美の作るお菓子が大好きだった。
和美はソファの前のテーブルに、出来立てのクッキーとジュースを置いた。
「あ、和美おばちゃんのクッキーだ。
懐かしい~~
俺の好物を覚えていてくれたんですね」
直人は二つ取ると、すずに一つを渡した。
「めっちゃ、美味しい~~
俺、母さんといおりに自慢します。
和美おばちゃんのクッキー食べたって」
直人は、前に座っている和美の様子を見ながらそう言った。でも、本当は、クッキーの味なんかどうでもよかった。
「もしかして、純はまだ帰ってきてないですか?
俺、バスから純を見かけたんです。
ここから結構離れている場所だったから、俺達の方が先に着いちゃったのかなって思って」