それでも、すずは直人にしがみついていた。直人の温もりは、すずの不安や恐怖を和らげてくれる。
 …森の中に住んでいる精霊達は、きっと遠くから見守っている。
 すずは、直人から教えてもらった純の話を一生懸命に思い出した。ここは神聖な場所だと、純がそう教えてくれた。
 少しだけ辺りが明るくなったような気がした。
 直人はきょろきょろ周りを見渡しながら前へ進むけれど、まだ分かれ道にたどり着かない。でも、やっぱり空気が違うものになった気がしてならなかった。不思議と、直人は匂いさえ変わったように感じていた。
 …森に棲む何かが自分達にそう遠くはないと教えてくれている。
 直人はもう一度、すずの肩を強く引き寄せた。きっと、目的地は近いはずだ。

「直人…
 ほら、あの上を見て…」

 すずはずっと上を見て歩いていた。純から送ってきたあのハガキの写真を思い浮かべながら、その風景を探していた。
 そして、美しいほどの黄色い世界が二人を待っていた。純が二人に見せてくれた景色と同じものが、夢のようにそこに現れた。