「直人、あとどれくらい?」
直人はすずが怯えているのが分かっていた。こちら側の岸は、向こう側の岸より森が鬱蒼としている。木漏れ日も届かないくらい暗くて薄気味悪い。
「そんなにかからないと思うよ。二つに分かれている道が出てくるまで急いで歩こう」
直人はすずの肩をさすりながら大股で歩く。
背の高い直人の歩幅に合わせるために、すずは小走りになった。
二人は一言も話さすに、ひたすら前へ進んだ。
三月初旬の森の中にどんな動物が生息しているのか何も知識がない。直人は、その自分の無知さに少しだけ感謝した。きっと知識がある人間だったなら、こんな場所には来なかったはずだ。
かなりの距離を歩いたはずなのに、未だに二手に分かれる道は見えてこない。直人は一旦立ち止まった。
「どうしたの?」
早くここから立ち去りたいすずは、直人を急かすようにそう聞いた。
「一旦、落ち着こう。
怖がって焦るの一番良くない気がするんだ。
あのおばちゃんが、こちら側にきたら、皆、方向感覚をなくすって言ってたのを思い出した。
そうならないように落ち着かなきゃ。
大丈夫だよ、すずには俺がついてるから…」