「よし、じゃ、出発しよう」
直人は立ち上がり、足元がふらつくすずの手をそっと握る。この小川の周りは、大小の丸い石だらけで足場が悪く歩きにくい。すずはバランスよく歩く事に集中している。
でも、直人はこの場所がとても気に入った。鬱蒼と茂る森の中のオアシスみたいに、この場所からは青空が見える。上を見上げると、緑の木々がそこだけ切り取られているようだ。
直人は空を見上げ、その光景を写真に撮った。差し込むこぼれ日に、緑の葉っぱ、そして青い空、その三色のコントラストによって美しい空間を作り出している。
「純がシャッターを切りたくなる理由がここに来て分かった気がする。
今のこの尊い瞬間を残したいって、写真とか全く分からない俺でさえそう思ったくらいだから」
そして、直人とすずはその小川にかけられた小さな橋を渡り、向こう岸へ出た。二人はあの店の女性に教わった通り、緩やかな上りになっている小道へ進む。でも、その道は手入れが全くされていない獣道のようだった。
すずは直人の腕にしがみついた。さっきまで聞こえていた小鳥の鳴き声が何も聞こえない。すずは、静けさの中に不気味な何かを感じ取っていた。