直人がすずの方に顔を向けると、また可愛い顔をして眠っていた。
 目指す目的地のバス停は、まだ全く見当たらない。直人はもう一度地図を広げて、今の場所を確認した。もうしばらくかかりそうだ。直人は地図をたたみリュックにしまうと、窓枠に肘をついてまた流れゆく外の景色をぼんやりと見つめた。
 鬱蒼と生い茂る木々を見ていると、遠くでせせらぎの音が聞こえるような気がした。直人は目を閉じて耳を澄ませた。あの時と同じ匂いがする。純と森を彷徨った時の森の匂いは、直人の記憶にしっかりと刻まれている。あの時も生い茂る木々を下った所に小川が流れていた。
 きっと、この森の下の方には川がある。直人はそう思いながら、またぼんやりと外を見た。

「えっ」

 直人はハッとした。そして、全開の窓から大きく身をのり出し振り返って外を見た。
 …純がいた。
 生い茂る木々が一瞬途切れた下の川につながる小道のような場所に、大人になった純が立っていた。純はこっちを見て微笑んでいるように見えた。純がこのバスを見つけてくれた。
 直人は純が二人を待っていてくれた事が嬉しくて、涙が溢れ出した。
 …純に早く会いたい。