いつの間にか、広いバスの中、乗客は直人とすずの二人きりだ。

「すず、覚えてる?
 修学旅行で日光のいろは坂をバスで上ったこと」

「うん、覚えてる。真子がバス酔いしちゃって」

「真子が吐き出したら、一斉に気分悪かった子が吐き出した。光太郎なんて真子の隣だったから可哀想だったよな」

 直人はリュックの中から純からの年賀ハガキを取り出した。

「純の住所を見て、すぐに地図で調べたんだ。
 いろは坂は上らないで済んでホッとした…」

 すずは直人の顔を見ながら思い出し笑いをしてしまう。

「なんだよ」

「だって……
 直人は光太郎の事を面白がって言ってるけど、直人だって死んでたじゃん。
 後ろの方で…」

「だって、俺の隣のやつがゲーゲーやりだして、必死に我慢したけど無理だったんだよ。
 俺の中では地獄の中にいるようだった…
 あ、思い出した。すずと純は吐かなかったんだよな?
 お前ら、スゲーよ」