「でも、今はいないって言ってるじゃん。
 じゃ、すずはどうなんだよ。高校の時は彼氏はいなかったの?」

「いない…」

「ほんとに?」

 すずは小さく頷いた。

「でも、たくさんの男子が言い寄ってきただろ?
 中学の時だってすずがあんまりモテすぎて、先輩のお姉さま達が怒ってたくらいなのに」

 直人はそう言いながら、でも、半面は嬉しかった。高校三年間、すずに彼氏がいなかった事は奇跡に近い。

「私は本当に好きな人としかつき合いたくない」

 直人はその言葉の意味が最初は何も分からなかった。好きでもない奴とつき合っていた自分を責めているだけだと思っていた。

「そこが男と女の違いかな~」

 直人は冗談めいてそう言った後、すずの反応を見ていた。すずは何も言わないで、直人のそばから離れようとしている。

「直人は本当に好きな人がいないんだね…
 本当に好きな人がいたら、そんな風に他の人とつき合えないはずだから」