電車は東京から離れるにつれて少しずつ空き始めた。
 すずの隣に座っていたおばあさんが途中で降りたため、すずが体を少しずらせば直人はゆっくりと座れる。でも、ずずはそのまま動かなかった。今、すずは直人の優しい温もりを感じている。ただ肩がほんの少し触れているだけなのに、直人に守られているような大きな安心感に包まれている。直人の息遣いや声が二人の体を伝って、すずの感覚に溶け込んでくる。それはとても心地よく、すずは直人から離れたくなかった。

「直人の高校の時の話を聞かせて」

 すずは甘えるように聞いてみた。

「高校の話?
 サッカーじゃなくて?」

「直人の高校生活の話。彼女とかいたんでしょ?
 あ、もしかして今もいるの?」

 直人は少しだけ首を傾け、意地悪そうな目ですずを見た。

「なんでそんな事知りたいの?」

 すずは直人と反対の方向に顔を向ける。

「だって、高校は別々だったし、その三年間はほとんど会う事もなかったし…
 どんな高校生だったのかなって思っただけ」