「直人、緊急事態だ」

 担任は直人の顔を見るなりそう言った。純はふてくされた顔で窓枠に肘をついて外を見ている。

「どうしたんですか?」

「純が…
 足の調子が戻らなくて、運動会には参加できないらしい」

 直人は純をチラッとを見た。それでも、純はまだ外を見ている。直人は純の足がなかなか良くならない事を、いつも一緒にいるからすでに気付いていた。

「運動会の全部にですか?」

「病院の先生から走るのは禁止されてるらしい」

 直人は今度は純の顔が見れなかった。学年で一番足が速い純にとって、運動会に出れない事は何よりも辛いはずだ。

「それで応援団も無理らしいんだ。結構走ったり、運動量が多いだろ?」

「…はい」

 直人は嫌な予感がした。

「直人、俺の代わりに団長やってほしい」

 純は不機嫌な表情のまま直人にそう言った。

「無理だよ…」

「なんで?」

「他にやりたい奴はいっぱいいるだろ?」

「俺は直人じゃなきゃ嫌だ」

 直人は純を睨み返した。