直人はそっと振り返り、その三十代位の男を睨みつけた。

「でも、俺が座ったら、本当に狭くなるけどいいの?」

「あの男の人が来るより直人の方が全然いい」

 直人はすずの隣にドカッと座った。

「ほら狭くなった」

 直人はそう言って肩をすくめる。
 すずの懐かしい匂いがする。それは、石鹸のようなシャンプーのようなあの頃と変わらない匂いだ。

「な、すず、俺って臭くない?
臭かったら言って、離れるからさ」

 直人はすずの匂いがこんなに近くでするのなら、きっと自分の匂いもすずにしていると思い焦ってしまった。着ているスカジャンをクンクン匂ってみる。

「全然、臭くないから。
 それよりも直人の匂いがして少しホッとしてる」

「俺の匂い?」

「うん…
 私が大好きな直人の匂い」

 直人はすずの言っている匂いの意味が全く分からない。不安になり、もう一度自分の体を匂ってみた。

「直人の匂いはお日様の匂いで、純の匂いは風の匂い……」