直人とすずは予定よりだいぶ遅れて、日光行きの快速電車に乗り込んだ。
土曜日の午前の割には、東京方面から栃木に向かう電車は意外と空いていた。直人は二人が座れるスペースを探して、先にすずを座らせた。電車の窓から見える空は、雲ひとつない青一色だ。でも、外はまだひんやりとした冷たい風が吹いていて、結構寒い。
しばらくの間、直人はすずの隣には座らずに、つり革につかまって上からすずを見下ろしていた。
「直人、座らないの?」
直人はすずの隣の狭いスペースを見た。
「俺が座ったらぎゅうぎゅうになって、すずがゆっくりできないかなって思って。
俺、身長も高いけど幅もあるからさ…
空いてきたら座るから大丈夫」
直人はすずの困った顔を見て優しく微笑んだ。
「私は大丈夫。だからここに座って」
直人はすずの言葉を軽く受け流し両手でつり革にぶら下がりながら、また上からすずを見つめた。
「直人、早く…
斜め前に立っている人がずっと私の隣を狙ってるよ」