直人はすがすがしい春の風を浴びながら、駅へ向かって自転車を走らせた。坂道を一直線に下れば駅の正面に出てくる。すずを待たせるわけにはいかない。直人は駅の駐輪場に自転車を止め、急いで待ち合わせの場所へ走った。
 さざんかさっちゃんの銅像の前で、色々な人達が待ち合わせをしている。すずは待ち合わせの時間より三十分も早くにこの場所に着いていた。
 昨日の夜は一睡もできなかった。直人と二人で純に会いに行く。すずの胸の中は嬉しさでいっぱいだったけれど、たまに顔を出す不安に心が少しだけ動揺した。
 すずの胸の中で蓋をしていた秘密が、大人になった今外へ出たいともがいている。直人と純とすずの三人模様は、すずの頑なな気持ちがあって成り立っていた。

「すずは誰が好きなんだよ」

 十二歳の純はそう言っていつもすずを困らせた。

「すずが俺を好きじゃないのならもう一緒にいたくない」

 真っ直ぐで負けず嫌いの純は、すずの気持ちがあやふやな状態をすごく嫌がった。

「俺を好きじゃないのなら、直人が好きなのか?」

 すずは首をずっと横に振った。

「好きな人はいないって言ってるじゃん…
 直人も純も友達として好き…
 それじゃダメなの?」