直人は外に出て団地の駐輪場に向かった。かつてはここの団地に純も住んでいた。隣の棟で同じ二階だった。棟と棟の間には小さな花壇があり、そしてその周りには背の高い木々が立っていた。あの頃は背が高いと思っていた木々も、今ではそんな事はない。直人は純と木登りをして遊んでいた頃を思い出しながら、今日、純に会える期待で心が踊っていた。
直人は自転車にまたがり、自分が住んでいる団地を遠くから眺めた。六年という月日は直人の心も身体も大人に変えつつある。でも、心の奥底に芽生えた友への想いは変わらない。
純が引っ越したあの日は、直人の心の中でトラウマとなって残っている。この団地のこの場所で、直人と純は別れた。
「直人、純との友情は永遠に続くんだから、もっと笑って。
一生の別れじゃないんだから。会いたければ会いに行けばいいだけの話でしょ」
純との別れが辛くて悲しくて、その時にそんな母の言葉は胸には響かなかった。それに笑顔を見せている純が憎らしかった。残される者は出て行く者より百倍寂しい。
その苦い思い出はトラウマとなって、今でも心のどこかに残っている。