直人はぎこちない文章で、なんとか最小限の必要な用件を書くことができた。久しぶりに書く手紙は、新鮮でそれでいてとても重かった。今の時代、スマホで簡単にメッセージのやり取りができる。直人が純に手紙を書くということは、きっと何か大切な意味を宿しているようなそんな気がしていた。

「はい、次はずずが書いて」

 すずは直人の書いた手紙をもう一度読んだ。純の家を訪れる理由と、日時が簡潔に書かれている。
 “もし誰もいない時には、ポストに入れておくから気にしないでね”と、この日しか都合がつかない切実な事情を含んだ言葉を最後に綴っていた。
 近々、直人は大学のサッカー部の春合宿に参加する。すずは美大へ進むため、課題の作品の制作に入らないとならない。それぞれの道がそれそれに待っていた。

「たくさん便せんがあるから、私は新しい一枚に書くね」

 すずはそう言うと、あっという間に言葉を紡ぎ出した。可愛らしい丸い文字は小学生の頃とあまり変わっていない。